「かぐや」、月の地質学に一石を投じる
【2009年9月11日 JAXA】
月周回衛星「かぐや(SELENE)」が、69個の月面クレーターを調べ、月の高地の地殻に、これまで推定されていたよりも純度の高い斜長岩が分布していることを明らかにした。
月の高地の地殻は、月形成の後に高温となり溶けた溶岩の海(マグマオーシャン)から他の鉱物より軽い斜長石が結晶化し、浮かんで形成されたと考えられている。これまでは、斜長石だけでなく輝石およびかんらん石も結晶化すると考えられることから、月の高地の地殻は斜長石90%とそれ以外の鉱物10%からできていると推定されてきた。
月周回衛星「かぐや」に搭載されているマルチバンドイメージャ(MI)の観測機器チームは、月面にあるクレーター69個を調べ、月の高地の地殻には、これまでの推定よりもはるかに純粋な、ほぼ100パーセントの斜長石から成る斜長岩(※)が広く分布していることを、世界で初めて明らかにした。つまり、ほぼ1種類の斜長石だけから地殻物質が形成されたことが示されたのである。
純度の高い斜長岩から成る地殻を生成するメカニズムとしては、マグマオーシャンから斜長石が結晶化するときに取り残されたマグマが下から浮揚する他の斜長石結晶に押しだされる、というものが考えられている。他にも、地球上で純粋な斜長岩が作られるのと同じような変形作用による可能性もあるという。
なお、アポロ計画で持ち帰られた月の岩石サンプルの中には、純度の低い斜長岩がある。その理由は、月のごく表層が隕石の衝突などによりかき混ぜられたためか、もしくは地殻の中に部分的に少し純度の低い斜長岩があるためではないかと考えられている。
今回の「かぐや」の成果は、従来の考え方とは異なる、斜長石だけが効率的に集まるような、月の高地の新たな地殻生成メカニズムの必要性を迫る結果となった。この成果は、英科学雑誌「ネイチャー」9月10日号に掲載された。
※斜長岩:カルシウム、アルミニウム、ケイ素と酸素より成る斜長石という鉱物を多く含む、白い火成岩。