ジェットだけじゃない、ブラックホールからの新種の超高速アウトフロー

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【2012年3月2日 NASA

超大質量ブラックホールと銀河進化の関係は、長い間、天文学者たちを悩ませてきた。その謎を解く鍵となる現象「超高速アウトフロー」の存在が明らかになってきた。


ブラックホールが作り出すジェットと巨大なガスの流れ

活動銀河内の超大質量ブラックホールは細いジェット(オレンジ色)と、超高速アウトフローという広いガスの流れ(青色と灰色)を作る。このガス流は銀河全体の星形成とブラックホールの成長に影響を及ぼすほど強力だ。挿入図:ブラックホールと降着円盤の拡大。クリックで各部名称つきで拡大(提供:ESA/AOES Medialab)

銀河中心に存在するブラックホールの質量と、バルジ(銀河中心の、星やガスが分布している球状にふくらんだ領域)にある星の速度との奇妙な関係は、長い間研究者たちを悩ませてきた。NASAゴダード宇宙飛行センターのFrancesco Tombesi氏らによって確認された新種の「ブラックホール起因アウトフロー」で、この関係が説明できるかもしれない。

大型の銀河のほとんどは、太陽数百万個分の超大質量ブラックホールが中心部に存在している。このブラックホールが重いほどバルジ部分の恒星の運動が速いので、ブラックホールと星の形成過程には何らかの関係があると考えられてきた。だが、ブラックホールの活動が太陽系の数倍ほどの領域に強く影響することはわかっているものの、その数百万倍ものサイズを持つバルジ領域にどの程度影響を与えているかについては、未だ明確な説明がなされていない。

ブラックホールの周囲に広がる降着円盤の内縁あたりからは、物質が外向きのジェットとして噴き出していることがある。光速の半分ほどのスピードにまでなるものの、コンピュータシミュレーションによればジェットは細く、エネルギーのほとんどをはるか遠くまで運んでいってしまうので、ブラックホールとバルジの恒星との関係を説明するものではなさそうだ。

Tombesi氏らは、最近見つかってきた新しいタイプのアウトフロー(外向きの流れ)に注目した。一部の活動銀河の中心をX線で観測すると、手前に低温ガス雲が存在し、それがこちらの方向へ動いていることがわかってきた。彼らはこの雲の動きが特別なアウトフローだと考え、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線観測衛星「XMMニュートン」でさらに観測を行い、「超高速アウトフロー」(UFO)の位置や性質を調べ上げた。

その結果、サンプルとした銀河の4割でこのアウトフローが見られ、活動銀河にはよく見られるものだということが明らかになった。アウトフローのガス雲と銀河中心ブラックホールとの距離は平均して0.1光年しかなく、平均速度は光速の約14%ほどである。「UFOの速度はジェットほどではないですが、他の種類のアウトフローに比べると格段に高速でパワフルです。ブラックホールから銀河規模へフィードバックを及ぼす大きな役割を果たして可能性もあります」(Tombesi氏)。

本来ならブラックホールに落ちていくはずの物質を吹き飛ばすUFOは、ブラックホールの成長にブレーキをかけているのかもしれない。また、星の材料となるバルジのガスを剥ぎとり、星形成を弱めたり止めたりしているかもしれない。UFOの存在は、ブラックホールとバルジ領域の恒星との間に関連があることを説明するものかもしれない。

Tombesi氏らは、2014年に打ち上げ予定の日本のX線宇宙望遠鏡「ASTRO-H」がUFO研究に大きく役立つと期待している。ASTRO-Hはブラックホールの周辺や超新星爆発などの高エネルギー現象や、高温プラズマに満たされた銀河団の研究を目的としており、日本が米欧の研究者と共に開発を進めている。