470光年かなたで生まれつつある惑星の兆候

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【2012年3月21日 茨城大学

成人前の恒星の周囲に広がる円盤が、すばる望遠鏡によってかつてない鮮明さで観測された。円盤の模様には惑星の存在を示唆する有力な証拠が見られる。


HD 169142の天球面上での位置

HD 169142の天球上での位置。ステラナビゲータで作成

円盤散乱光の概念図

今回とらえられた円盤散乱光の概念図。クリックで拡大(提供:茨城大学)

円盤の偏光強度画像

得られた偏光強度の画像。黒い部分は恒星の光を隠すマスク、十字が恒星の位置を表す。クリックで拡大(提供:茨城大学、SEEDS)

アルマ観測のシミュレーション

図4:原始惑星系円盤中に原始惑星が存在している状況をアルマ望遠鏡が観測した場合に得られる画像のシミュレーション。クリックで拡大(提供:Wolf and D'Angelo, ALMA)

系外惑星探査プロジェクト「SEEDS」で、若い恒星「HD 169142」に惑星が存在することを示す有力な証拠が見つかった。太陽約2個分の質量を持つ恒星HD 169142はいて座の方向470光年先にあり、核融合を開始して一人前の星(主系列星)になる少し前の段階の星だ。

以前から周囲にガスと塵の円盤が観測されており、今回の観測では、すばる望遠鏡の系外惑星探査用カメラHiCIAO(ハイチャオ)を使用してその円盤の様子をさらに詳しく調べた。HiCIAOによる

  • 1. 補償光学システムで地球大気の揺らぎを補正
  • 2. 恒星の明るい直接光の部分を隠して撮像(コロナグラフ)
  • 3. 光の偏光強度を測定して、円盤散乱光を抽出

という3つの手段を駆使すると、明るい星の周囲にある惑星や円盤の淡い光をとらえることができる(図2枚目)。

かつてない鮮明さでとらえられた円盤のようすは非常に興味深いものだった(図3枚目)。HD 169142の円盤には明るさが一様でないリングや明るい斑点があるなど、全体の明るさにムラが見られた。また以前は見られなかった溝状の暗い領域も初めて確認された。

このような非対称の構造は、円盤内に惑星が生まれつつあるとすれば説明ができる。円盤の模様から、惑星が存在する可能性が高いのは恒星から20AU以内(画像ではマスクされて見えない)の領域と、51〜87AUの溝状の暗い領域であると推定される。

恒星周囲の円盤には2つの段階があるとされる。成人前の恒星の周りには、恒星の材料となった塵とガスの余りから成る「原始惑星系円盤」があり、その中から惑星が生まれると考えられる。一方、成人した主系列星の周りには、惑星系内で起こる小天体同士の衝突で供給された塵でできているとみられる「残骸円盤」がある。

HD 169142は成人する少し手前の段階で、なおかつ惑星が生まれている可能性が高い。したがってその周囲の円盤は、「原始惑星系円盤」から「残骸円盤」への遷移の途中という、観測対象としては貴重な進化段階にあると考えられる。

現在、南米チリで建設と同時に部分運用されている大型電波望遠鏡「アルマ」が完成すれば、さらに鮮明な画像が得られ、惑星の存在と形成過程を明らかにできると期待されている(図4枚目)。

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