世界初、時速2万kmのジェットなど太陽表面現象を地上で再現

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【2012年9月10日 JAXA

地上の実験室にあるプラズマ実験装置を用いて、1万度から約3万度まで急速に加熱されるガスや時速2万kmもの速さで吹き出すジェット、加熱に伴って発生する磁場の激しいゆれなど太陽で起こっているいくつかの現象が世界で初めて再現された。


(太陽の構造)

太陽の構造(提供:JAXA)

(TS-4球状トーラス実験装置の画像)

TS-4球状トーラス実験装置。クリックで拡大(提供:東京大学)

(磁力線のつなぎ替え概念図の画像)

磁力線のつなぎ替え(磁気再結合)の概念図。磁力線がつなぎ替わるときには磁力線がゴムひものように縮み、ゴムパチンコの要領で磁力線にとらえられたプラズマも加速される。クリックで拡大(提供:JAXA)

(実験装置で再現された現象と模式図の画像)

実験装置で再現された現象(左)と、その模式図(右)。クリックで拡大(提供:JAXA)

太陽では、1500万度もある中心核の熱が放射や対流によって表面に伝わり、光球(私たちの目に見える太陽表面)では6000度に下がる。ところが、そこを過ぎると逆に表面から遠ざかるほど高温となり、コロナ(希薄な外層大気)では100万度を超えることが知られている。熱源から離れるほど熱くなるというこの逆転現象は「コロナ加熱問題」として知られ、これを解き明かすことが太陽研究の長年の課題となっている。

この問題に挑むため、JAXAでは2006年に打ち上げた太陽観測衛星「ひので」を使って宇宙空間から太陽観測を行っている。6年に及ぶ観測から、光球とコロナの中間にある彩層で爆発現象や高速で吹き出すジェットなどが頻繁に発生していること、さらにこれらの活動現象がコロナ加熱において重要な役割を果たすことがわかってきている。また、そこでは磁場が大きな働きを果たしていると考えられている。

太陽表面で起こっている現象を理解するために、「ひので」のような高性能望遠鏡による「観測的手法」とスーパーコンピューターなどによる「理論的手法」とを組み合わせた研究がこれまで進められてきた。しかし、光球面でしか磁場を観測できない「ひので」の観測では磁場の立体構造を把握することが難しく、また彩層でのプラズマの物理的な状態やそのミクロなスケールでのふるまいを知ることもできないという課題があった。

JAXA宇宙科学研究所の西塚直人(にしづかなおと)研究員を中心とする研究チームは、地上の実験室にあるプラズマ実験装置を用いた「実験的手法」を新たに導入し、太陽の彩層で起こっているのと類似の現象を地上で再現することに世界で初めて成功した。彩層と類似の環境を模擬できる高性能のプラズマ実験装置があったことに加え、「ひので」の観測によって磁場形状を正確に推定できたことが成功の大きな要因だ。

実験的手法では装置内のプラズマや磁場の状態を至近距離から計測できるため、観測的手法では特定が難しい磁場の立体構造(特に高度方向の構造)やプラズマ状態(温度・密度・速度や抵抗)のミクロなスケールでのふるまいを診断することができる。そこへ理論的手法も組み合わせることで、太陽で観測される現象がどのような物理過程によるものなのかを推定することができるようになったのである。

実験では、東京大学TS-4球状トーラス実験装置(図2枚目)を用いて強い磁場にとらえられたドーナツ状のプラズマを作り、周囲の磁力線と近接させることで磁力線のつなぎ替え(図3枚目)を発生させた。その結果、1万度から約3万度まで急速に加熱されるガスや時速2万kmもの速さで吹き出すジェット、加熱に伴って発生した磁場の激しいゆれ(波動)などの現象を世界で初めて観測することに成功した(図4枚目)。

これは、規模こそ違うものの、太陽で観測される彩層ジェットに類似した特徴を持っている。また、磁場の激しいゆれが磁力線のつなぎ替えに伴って発生することを直接的に突き止めたことは、コロナ加熱の有力な仮説のひとつである「コロナ波動加熱説」において、コロナの加熱源と考えられている磁場のゆれがどのように発生するのかを示す貴重な結果である。

今回狭い装置内で観測されたプラズマのふるまいは、実際に観測される太陽ジェットの特徴を定量的に説明できるものではない。たとえば、再現されたジェットの速度は時速2万km程度で、実際の太陽ジェットの時速10〜70万kmには遠く及ばない。この違いは何十桁も大きな太陽ジェットとの空間スケールの違いや、電離度の違いによるものと考えられている。今回開拓された実験的手法に基づく研究をさらに進め、観測的手法による直接の証拠の検出や理論的手法を補うことができれば、ダイナミックな太陽活動やコロナ加熱問題の理解が大きく進むと期待されている。

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