17年の観測でわかった、太陽風と極域電波の関係

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【2012年9月20日 国立天文台

長年にわたる観測調査で、太陽の高緯度の活動と惑星間空間を吹く太陽風が大きく関係していることがわかってきた。


5月に発表された、太陽の長期的な活動状況

野辺山電波ヘリオグラフ

図1:野辺山電波ヘリオグラフ。クリックで拡大(提供:国立天文台)

太陽面での電波強度の変化

図2:1992年〜2010年の太陽面での電波強度の変化。横軸が年、縦軸が太陽面の緯度。赤色が電波の強いところ、青色が弱いところを示している。クリックで拡大(提供:NAOJ/STEL)

恒星間空間内での太陽風の速度の変化

図3:図2と同時期の、恒星間空間内での太陽風の速度の変化。横軸が年、縦軸は恒星間空間の緯度。赤色は太陽風が高速の領域、青色は低速の領域を示す(提供:NAOJ/STEL)

富士観測所のシンチレーションアンテナ

図4:富士観測所のシンチレーションアンテナ。クリックで拡大(提供:名古屋大学太陽地球環境研究所提供)

国立天文台野辺山太陽電波観測所では、口径80cmのパラボラアンテナ84台を配した電波ヘリオグラフ装置(図1)で取得したデータから、17年にわたる太陽面での緯度ごとの電波強度の変化を示した電波蝶形図(図2)を作成した。

図を見ると、図中上下の端の部分が赤い、つまり高緯度領域の電波が強いことがわかる。またそのような高緯度が活発な時期は黒点のほとんどない活動極小期と、逆に暗くなる時期は黒点活動が極大の時期と一致する。

高緯度と低緯度をあわせた太陽全面の活動は、観測を開始した20年前から次第に低下している。また、南半球と北半球の活動の同期、南半球における低緯度と高緯度の活動の同期がくずれてきている。

こういった太陽の活動状況については、5月に発表が行われている(参考:2012/5/31「太陽活動が20年間で低下 南北半球の周期ずれも」)。

今回の研究成果

名古屋大学太陽地球環境研究所ではシンチレーションアンテナを使って、はるか遠くの天体から太陽系内を通過して届く電波の“またたき”をとらえて太陽風の速度を観測している。「太陽風」とは太陽から吹き出し惑星間空間を満たしているプラズマ粒子のことだ。観測された速度の分布から約1か月毎に惑星間空間の展開図を合成し、それらを並べて長期変化を示したものが、今回初めて作成された太陽風蝶形図(図3)だ。

図では、高速の太陽風(秒速700km以上)が高緯度から中緯度に広がっていることがわかる。高緯度で高速風が消えるのは黒点活動の最盛期で、高緯度の電波強度が最低になった時期と一致している。

北半球では電波の強さと太陽風速度の関係は非常にはっきりしており、活動周期ごとにそれを繰り返している。しかし、南半球では北半球にみられるようなはっきりした関係がみられず、活動周期ごとに異なった関係を示す。

2000年以降は不規則な構造が見られ、電波観測から推測される全球的な活動周期活動の乱れに関係していると推測される。

まとめ

以上のデータから、電波で明瞭に検出できる高緯度の活動と高速太陽風がよい相関を示すことがわかった。今後も観測を続けるとともに、こういった相関関係のみならず、これらを支配しているメカニズムについての研究を進める必要がある。

地球は太陽の赤道付近に正対しているため、太陽面の高緯度の活動に依存している高速太陽風からは、直接的には影響を受けていない。しかし太陽風の風圧によって決まる惑星間空間全体(太陽圏)からは間接的影響を受ける。たとえば、太陽風は太陽圏外からの銀河宇宙線を押し返すため、地球に届く銀河宇宙線の量を左右し、地球の大気に影響を与える可能性がある。これが直接地球の温暖化や寒冷化と結びつくかどうかについては、地球の気候の研究との共同研究が必要だ。

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