85億光年かなたに太陽の1000兆倍の質量を持つ巨大銀河団
【2015年11月6日 NASA JPL】
銀河団は数千個もの銀河の集まりであり、個々の銀河にはそれぞれ数千億個の星が存在している。こうした銀河団が時間経過とともにどのように進化してきたのかを調べるには、若かったころの宇宙を観測すればよい。若い、つまり現在からはるか過去の宇宙を見るということは、光が届くのに時間がかかることを考えると、遠方宇宙を観測することと同じである。
遠方宇宙からの光は、宇宙膨張の影響で波長が引き伸ばされる。したがって、こうした遠方銀河団の研究を行うには赤外線観測が有効だ。米・フロリダ大学のAnthony Gonzalezさんらの研究チームはまず、NASAの赤外線天文衛星「WISE(現・NEOWISE)」による全天観測から作られたカタログを調べ、さらに赤外線天文衛星「スピッツァー」のデータと組み合わせることで対象を絞り込んでいった。そうして見つかったのが、しし座方向の銀河団「MOO J1142+1527」だ。W.M.ケック天文台とジェミニ天文台による観測から、MOO J1142+1527までの距離は85億光年であると計測された。
さらに、米・南カリフォルニアにあるミリ波干渉計「カルマ(CARMA)」が銀河団内に数千万度の高温ガスを検出し、それを元にして銀河団の質量が太陽の1000兆倍であると決定された。初期宇宙において、これほど大質量の銀河団はおそらく一握りしか存在しないと考えられている。研究チームは引き続き1700個以上の銀河団候補をふるいにかけ、最大の銀河団を探す研究を続ける予定だ。
「最大の銀河団が見つかったら、次はその極端な環境において、銀河がどのように進化したのかを調べます」(Gonzalezさん)。
〈参照〉
- NASA JPL: Whopping Galaxy Cluster Spotted with Help of NASA Telescopes
- The Astrophysical Journal Letter: The Massive and Distant Clusters of WISE Survey: MOO J1142+1527, A 1015 M⊙ Galaxy Cluster at z=1.19 論文
〈関連リンク〉
- ケック天文台: http://keckobservatory.org/
- ジェミニ天文台: http://www.gemini.edu/
- NASA: http://www.nasa.gov/
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