110億年前の宇宙に近傍最大級の銀河団の祖先
【2015年4月21日 すばる望遠鏡】
国立天文台と総合研究大学院大学などの研究チームが、110億年前の宇宙に見つかった2つの原始銀河団「PKS 1138-262(うみへび座方向)」「USS 1558-003(へび座方向)」をすばる望遠鏡を用いて調査した。2012年の発見時、これらの銀河団の銀河が集団化途上にあり複雑な分布をしていることや、勢いよく星を生み出していることなどがわかっていた。
今回改めて行われた詳しい観測から、それぞれがおよそ太陽の数百兆倍もの質量を持っていることがわかった。これほどの質量の銀河団は、「かみのけ座銀河団」など現代最大級の銀河団の直接的な祖先にあたるものと推定される。
また分光観測から、同じ重さの銀河でも、密度の高い原始銀河団に含まれるものは銀河がまばらな領域にあるものと比べてガスの重元素の割合が高いこともわかった。重元素とは水素やヘリウムなど以外の重い元素のことで、恒星内部で作り出され、星風や超新星爆発といった星の終末プロセスによって周囲に流れ出す。
なぜ銀河団の銀河は重元素含有率が高いのだろうか。銀河外へのガス流出過程に着目した今回の研究では、以下の2つの理由が挙げられている。
- 混み合った銀河団を飛び回る銀河は、銀河団内を満たすガスや他の銀河との接触が多い。そのため一番外側の、重元素が少ないガスをはぎ取られ、全体としてはガスの重元素含有率が高くなる
- 銀河の周囲を満たす銀河団ガスの圧力により、銀河から重元素が流出しにくくなる
発表者の嶋川里澄さんは今回の成果について、「今後は個々の銀河内部のより詳細な解析によって、原始銀河団における特殊な環境にさらされた特有の銀河形成と成長過程をより明確にていきたい」と語っている。
〈参照〉
- すばる望遠鏡: 110 億年前の宇宙に近傍最大級の銀河団の祖先を確認~原始銀河団における固有の銀河形成過程~
- MNRAS: An early phase of environmental effects on galaxy properties unveiled by near-infrared spectroscopy of protocluster galaxies at z>2 論文
〈関連リンク〉
- すばる望遠鏡: http://subarutelescope.org/
- 星ナビ.com こだわり天文書評:
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