すばる望遠鏡が見つけた宇宙最遠方の銀河団
【2012年4月25日 国立天文台】
現在知られている中で最も遠い銀河団が見つかった。すばる望遠鏡による発見で、これまでの記録より7000万光年も遠い127億2000万光年先にある。
宇宙には、100個から1000個以上の明るい銀河が集まった「銀河団」と呼ばれる銀河の集団が存在する。これらの銀河団はさらにお互いに結びつき合っており、「宇宙の大規模構造」と呼ばれる巨大なネットワークを形成している。この巨大な構造は初期宇宙に存在したわずかな物質分布のムラが、宇宙の成長とともに大きくなっていった結果であると考えられている。そのため、銀河進化から宇宙の大規模構造までの大きな謎に迫るためには、銀河団を理解することが非常に重要である。
総合研究大学院大学の利川潤さんと国立天文台の柏川伸成さん、京都大学の太田一陽さんらの研究チームは、かみのけ座方向の「すばる深宇宙領域」とよばれる天域に、遠方銀河団の密度が周辺よりも5倍も高い領域を見つけた。さらに観測したところ、この領域に存在する多くの銀河が900万光年以内の範囲に密集していることも確かめられた。たまたまとは思えない密集具合から、この銀河の集まりは127億2000万光年先にある原始銀河団であることが明らかになった。これは現在発見されている(分光によって距離が確かめられた)ものの中でもっとも遠い銀河団で、従来の記録(2005年にすばる望遠鏡が発見)よりさらに7000万光年も遠い。宇宙年齢が10億年にも達していない、ごく初期の原始銀河団の存在を明らかにしたことで、宇宙の構造形成や銀河進化の始まりを直接見ているということになる。
発見された銀河団の銀河の性質を調べたところ、原始銀河団に属さない同時代の銀河との間に大きな違いは見つからなかった。このことから、現在の宇宙で銀河団に属する銀河に見られる特有の性質は、銀河団が成長していく過程で後天的に獲得したものだと推測される。また、この原始銀河団の内部を詳しく調べてみた結果、いくつかの銀河のグループを形成しているような傾向も見られた。これは、さらに巨大な銀河団を作るために小さな銀河集団が集まる過程の端緒なのかもしれない。
すばる望遠鏡では現在、今回の観測に使われた主焦点カメラの7倍もの視野を持つ次世代装置「Hyper Suprime-Cam」(HSC)の搭載準備が進んでいる。今後、HSCを用いた観測では遠方原始銀河団についてのさらなる発見ができると期待されている。
「今回のような遠方原始銀河団の発見を積み重ねることによって、近い将来、銀河団形成の謎が解けるでしょう」(利川さん)。