2020年10月6日、約2年2か月ぶりに火星と地球が最接近します。約6210万kmまで近づく“準”大接近です。
肉眼では2021年1月ごろまで明るく見えます。火星が星座の中を動いていく様子を追いかけてみましょう。
最接近の前後は天体望遠鏡で火星の模様が見やすくなります。この夏~秋は木星・土星と共に3惑星を観察するチャンスです。
目次
火星を見つけよう
ひときわ目をひく赤い星
火星は地球との位置関係(距離)によって明るさが大きく変わる惑星です。今シーズンの火星は2020年6月上旬から2021年1月上旬までの約半年間、マイナス等級で(いわゆる1等星よりも明るく)輝きます。10月6日の地球最接近の前後には木星よりも明るくなり、宵空に見える天体としては(月を除いて)最も明るくなります。
また、今シーズンの火星は「みずがめ座」から「うお座」のあたりに位置していますが、このあたりの領域は明るい星が少ないため、火星の存在感が際立ちます。特徴的な赤い色も目印となるので、街中でも簡単に見つけられます。
星座の中を動く火星
地球から見ると、火星は背景の星々の間を動いていくように見えます。
火星は6月下旬に「みずがめ座」から「うお座」の領域へと移り、夏の間は天球上を西から東へと「順行(じゅんこう)」しています。一時的に「くじら座」の領域も通りながら、火星は9月10日の「留(りゅう)」まで順行を続けます。その後は天球上を東から西へと「逆行(ぎゃっこう)」し、逆行期間中の10月6日に地球最接近、15日(赤道座標系の場合/黄道座標系では14日)に「衝(しょう)」となります。
その後、11月16日に再び「留」を迎えると、火星の動きは逆行から順行へと変わります。そして2021年1月上旬ごろに「おひつじ座」、2月下旬に「おうし座」の領域へと移っていきます。
期間中の火星の動きをスケッチや写真で記録に残すと面白いでしょう。
火星に関する現象カレンダー:月との共演など
2020年6月~2021年3月ごろに起こる、火星と月との接近などは、以下のとおりです。このうち月との接近は、やや間隔は大きくなりますが前後の日にも見ることができます。天王星や海王星、恒星などとの接近は、しばらくの期間中見られます。
日付 | 現象 | 備考 |
---|---|---|
6月13日 | 月(月齢21)と接近 (›› 解説) | 未明~明け方 |
6月上旬 ~中旬 |
海王星と大接近 (›› 解説) | 未明~明け方 最接近6月14日ごろ |
6月14日 | 西矩(せいく) | 太陽から90度西に離れる(日の出のころ南に見える) 黄道座標系では7日 |
7月12日 | 月(月齢20)と接近 (›› 解説) | 未明~明け方 |
8月 9日 | 月(月齢18)と接近 (›› 解説) | 深夜~明け方 南大西洋で火星食(日本時間17時ごろ) |
9月 5日 | 月(月齢18)と並ぶ | 深夜~明け方 |
9月 6日 | 月(月齢18)と接近 (›› 解説) | 深夜~明け方 南米~アフリカで火星食(日本時間14時ごろ) |
9月10日 | 留(りゅう) | この日を境に、天球上を東→西に動く(逆行する)ようになる |
10月 3日 | 月(月齢15)と並ぶ | 未明~明け方 南大西洋で火星食(日本時間12時ごろ) |
10月 3日 | 月(月齢16)と接近 (›› 解説) | 宵~明け方 |
10月 6日 | 地球と最接近 (›› 解説) | 23時18分/6207万km |
10月15日 | 衝(しょう) (›› 解説) | 太陽の反対に来る(深夜に南に見える) 黄道座標系では14日 |
10月29日 | 月(月齢13)と接近 (›› 解説) | 夕方~未明 |
11月16日 | 留(りゅう) | この日を境に、天球上を西→東に動く(順行する)ようになる |
11月26日 | 月(月齢10)と並ぶ | 未明 |
11月26日 | 月(月齢11)と並ぶ | 夕方~宵 |
1月21日 | 月(月齢8)と接近 (›› 解説) | 夕方~未明 |
1月22日 | 東矩(とうく) | 太陽から90度東に離れる(日の入りのころ南に見える) 黄道座標系では2月1日 |
1月中旬 ~下旬 |
天王星と大接近 (›› 解説) | 夕方~深夜 最接近1月20日ごろ |
2月19日 | 月(月齢8)と接近 | 夕方~深夜 |
2月下旬 ~3月中旬 |
プレアデス星団と接近 (›› 解説) | 夕方~深夜 最接近3月4日ごろ |
3月19日 | 月(月齢6)と接近 (›› 解説) | 夕方~深夜 |
3月20日 | 月(月齢7)と並ぶ | 夕方 |
3月中旬 ~下旬 |
アルデバランと並ぶ | 夕方~宵 最接近3月21日ごろ |
2021年4月以降の現象については「星空ガイド」や「天文現象カレンダー」で順次ご紹介します。
モバイルツールでシミュレーション
iOS用の「iステラ」「iステラ HD」やアンドロイド用「スマートステラ」などのモバイルアプリを使うと、端末を向けた方向の空を画面にシミュレーション表示するので、火星のある方向や周りの星、星座の名前が簡単にわかります。日付を変えて星座の中を動く様子をシミュレーションすることもできます。
表面の模様を観察しよう
火星は小さい惑星なので、地球と接近するといっても見かけはあまり大きくなりません。表面の模様を見るためには天体望遠鏡が必要です。
火星は約24時間40分で自転しているので、見える模様も日時によって変化します。シミュレーションソフトなどで、どんな模様が見やすいのか確かめておきましょう。とくに目立つのは「大シルチス」と呼ばれる暗い部分です。
- 倍率を高くすると像が揺れやすくなります。風が弱いときが観察に適しています。また、火星が南中する(真南に来る)前後の高いところにあるときは大気の影響が小さくなるので、低いときよりもよく見えます。
- 一見しただけでは、模様の濃淡は見えません。じっくり眺めていると、少しずつわかるようになってきます。
- 公開天文台や科学館などで開催される観望会(観察会、観測会)では、大きい望遠鏡で火星を見ることができます。お近くのイベント情報は、全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」で検索してみてください。
見かけの大きさ
地球最接近となる10月6日の火星の見かけの大きさ(視直径)は22.6秒角で、同じ日の木星や土星(環を含めた長径)の6割弱です。また、80倍に拡大すると、肉眼で見た満月とほぼ同サイズになります。8月上旬から11月下旬までは火星の視直径が15秒角を超えており、口径10cm程度の天体望遠鏡でも模様が見やすいでしょう。
- 天体の見かけの大きさは角度で表します。1秒=1/60分=1/3600度です。満月の見かけの大きさは約0.5度(=30分=1800秒)です。
- 満月の視直径0.5度は、2.2m先にある1円玉(直径2cm)を肉眼で見た見え方に相当します。つまり、地球最接近のころの火星を80倍の天体望遠鏡で見ると、これと同じような大きさに見えます。160倍であれば約1.1m先の1円玉と同じような見え方です。
- 地球と火星との位置関係によっては、火星が欠けて見えることがあります(半月と満月の間くらいの形のイメージです)。
火星を撮影してみよう
カラーCMOSカメラを天体望遠鏡に接続して惑星を動画撮影し、その中から写りの良いフレームだけを選んで多数枚コンポジットすると、精緻で滑らかな惑星像を得ることができます。天体画像処理ソフトウェア「ステライメージ」を使うと、動画からのコンポジットはもちろん、カラーバランス調整やディテール強調まで簡単かつ詳細に行えます。画像を「作品」に仕上げてみましょう。
オンラインショップ
アストロアーツのオンラインショップでは、天体望遠鏡などを多数取り扱っています。火星の模様を自分の目で観察してみましょう。ライトやクッションなどの便利グッズ、火星儀などもあります。
火星に関するマメ知識
赤い大地
太陽系で地球の1つ外側を公転している火星は、大きさ(直径)が地球の半分ほどしかない、水星に次いで小さい惑星です。表面の大部分を占める平原が酸化鉄(鉄さび)で覆われているため、火星は赤っぽい色に見えます。海と呼ばれる暗い部分や、長さ3000km深さ8kmに及ぶ太陽系最大級の峡谷「マリネリス峡谷」、周囲と比べて27kmも高い太陽系最大級の山である「オリンポス山」といった地形もあります。
両極部分には水と二酸化炭素の氷でできた極冠(きょくかん)があり、白っぽく見えます。極冠の大きさは火星の季節変化に応じて変化し、夏には小さく、冬には大きくなります。
火星探査
火星に生命は存在するのか(過去に存在したのか)、液体の水はある(あった)のか、地形はどのように作られたのか、大気が薄いのはなぜか、2つの衛星フォボスとダイモスの起源は、…。惑星や太陽系の形成と進化(時間変化)といった科学的興味から、将来の人類の移住可能性という観点まで、火星は人々の心を引き付けてやまない惑星です。
約50年前の1960年代には早くもアメリカと旧ソ連が火星探査を始め、マリナー計画やバイキング計画によって詳しい地表の様子などが明らかにされていきました。現在はアメリカNASAの「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」や「メイブン(MAVEN)」、ヨーロッパ宇宙機関の「マーズエクスプレス」、インドの「マンガルヤーン」などが火星を周回しながら探査を行っています。
周回軌道からだけでなく、地表に着陸した探査車による調査もこれまでに複数行われています。現在は2012年に着陸したNASAの「キュリオシティ」が地表を移動しながら土壌調査などの探査を行い、2018年に着陸したNASAの「インサイト(InSight)」は「火震」の検出や温度測定などの方法で火星内部を調査しています。
ヨーロッパ宇宙機関とロシア共同の「エクソマーズ(ExoMars)」、NASAの「MARS 2020」(探査車「パーサビアランス」)、アラブ首長国連邦の「Hope Mars mission」(日本のH-IIAロケットで打ち上げ)、中国の「天問1号」なども進行中です、日本でも、火星の衛星からのサンプルリターンを試みる「MMX」計画が進められています。今後も様々な発見や研究成果があることが期待されます。
2年2か月ごとに起こる
地球との接近
火星の公転周期(太陽の周りを1周する期間)は約687日です。火星が太陽の周りを1周する間に地球は約2周します。この公転周期の違いから、2つの惑星は約2年2か月ごとに距離が近づき、軌道上で隣り合わせになります。
地球と火星の最接近距離は、毎回異なります。火星の軌道は楕円形なので、軌道上のどこで地球と接近するかによって距離が大きく変化するのです(地球の軌道も楕円形ですが、火星ほどはつぶれていません)。前回(2018年7月)には6000万km弱まで近づき「大接近」として話題となりました。反対に「小接近」のときには1億kmも離れます。
※接近の度合いは「大接近」「中接近」「小接近」などと表現されますが、「○万km以内が大接近」のような明確な基準はありません。