月は古くから人々に親しまれている身近な天体です。とくに天保暦(旧暦)八月十五日の月は「中秋の名月」として有名で、お月見をする習慣があります。
暦の関係で、中秋の名月は必ずしも満月になるとは限りません。2020年は10月1日が「中秋の名月」で、満月の日の前日ですが、ほぼ真ん丸に見えます。澄んだ夜空に浮かぶ名月を眺めてみましょう。
目次
今年の名月は満月の前日
お月見といえば「9月の満月」と思われがちですが、今年2020年の場合、中秋の名月の日は10月1日で、9月でもなければ満月の日(10月2日)でもありません。中秋の名月の日付は、どのように決まるのでしょうか。
名月といえば秋
「中秋の名月」には月を眺めて供え物をする習慣がありますが、そもそも「中秋の名月」とはなんでしょう。
昔から、秋こそが月を見るのに良い季節とされていました。その理由は、満月の高さと天気です。
夏の太陽は高く、冬は低いことはご存じでしょう。満月は地球から見て太陽の反対側にありますから、夏の満月は低く、冬は高くなります。つまり春か秋の満月が、ちょうど見上げるのに適した高さです。
春と秋とを比べると、「春がすみ」「秋晴れ」という言葉があるように、天気の良さでは断然秋。そこで、秋が月見のシーズンとなったとされています。
その秋(七月~九月)の中で、ちょうど真ん中の日が「中秋」、八月十五日です。そのため、八月十五日を「中秋の名月」と呼んで月を愛でることにしたのです。ちなみに似た言葉の「仲秋」は「八月」を指します(七月は孟秋(初秋)、九月は季秋(晩秋))。
「中秋」八月十五日の決め方
「秋が七月~九月」「中秋の名月は八月十五日」というのは現在の暦ではなく、天保暦(いわゆる「旧暦」)による日付です。現在、正式に旧暦を発表する機関はありませんが、かつての法則と同様に太陽と月の動きを元にして旧暦を計算することは可能です。具体的には「秋分日(太陽が秋分点を通過する日)以前の、一番近い朔(新月)の日を1日目(旧暦八月一日)として、15日目を中秋とする」と決められます。
このようにして旧暦を決めると、現在の暦からおよそ1か月遅れになるので、中秋の名月は9月になることが多いのです。しかし2020年の場合、秋分日は9月22日、直前の朔の日は9月17日ですので、15日目(14日後)の10月1日が中秋となります。
十五夜と満月は、ずれやすい
さて、「十五夜」というのは「新月の日を1日目としたときの15日目の夜」ということですが、この日に満月になるとは限りません。
ある日付が「満月の日」というのは、その日のうちに「月が望、つまり地球から見てちょうど太陽の反対方向を通る瞬間を迎える」ことを意味します。「新月の日」も「月がちょうど太陽と同じ方向を通る瞬間(朔)」を含む日です。
新月から新月まで(月の朔望周期)は約29.5日なので、新月から満月までは平均すると約14.8日ということになります。たとえば「1日の23時に朔」だとすると、十五夜は(14日後の)15日となりますが、望は平均的には14.8日後の「16日18時ごろ」なので満月の日は16日になり、1日ずれるわけです。
さらに、月の軌道が楕円であることなど様々な理由で、朔から望までの期間が14.8日からずれることもあります。こうした複合的な理由から、十五夜と満月の日は一致しないことが多くなるのです。
とはいえ「秋の真ん中」は八月十五日なので、たとえ満月とずれていても十五夜こそが中秋の名月。もちろん他の日の月も美しいのですが、とくにこの日には名月を眺めたいものですね。
ちなみに、2020年の場合は10月2日の朝6時5分ごろが望です(朔からの日数は14.42日)。つまり、「中秋の名月の日」1日の夕方18時ごろに東の空から昇ってくる月は望の12時間ほど前の丸い月、日付が変わるころに南の空に見える月は望の6時間前の丸い月ですから、「1日から2日にかけて見える『中秋の名月』は、ほぼ満月」と言えるでしょう。
今後10年間の、中秋の名月の日と満月の日
2021年から2023年は日付が一致し、それ以降の年は名月が1日か2日早くなります(その次に日付が一致するのは2030年です)。
年 | 中秋の名月 | 満月 |
---|---|---|
2020年 | 10月 1日 | 10月 2日 |
2021年 | 9月21日 | 9月21日 |
2022年 | 9月10日 | 9月10日 |
2023年 | 9月29日 | 9月29日 |
2024年 | 9月17日 | 9月18日 |
年 | 中秋の名月 | 満月 |
---|---|---|
2025年 | 10月 6日 | 10月 7日 |
2026年 | 9月25日 | 9月27日 |
2027年 | 9月15日 | 9月16日 |
2028年 | 10月 3日 | 10月 4日 |
2029年 | 9月22日 | 9月23日 |
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望遠鏡で月を見よう
月の「うさぎ」の模様は肉眼でも見え、双眼鏡を使うと大型のクレーターを見ることもできますが、月の様子を詳しく観察するなら天体望遠鏡が一番です。
望遠鏡をお持ちであれば、まずはそれを月に向けてみてください。それほど口径が大きくないものでも、クレーターや山脈などが驚くほどはっきり見えるはずです。倍率が高いほど大きく見えますが、大気や地面の揺れの影響を受けやすくなったり、地球の自転に伴って月がすぐに視野から外れたりしてしまいます。月の全体像を眺めるなら50~70倍、一部を拡大して観察するなら100~200倍くらいが適していますが、状況に応じて変えてみましょう。
- クレーターなどの観察は、満月に近いときよりも半月など「欠けた」月のほうが面白いでしょう。地形の横から太陽の光が当たることで影ができ、地形が立体的に見えるからです。とくに欠け際の部分の見え方には、月の魅力が存分に感じられます。
満月に近い時には海の模様や、一部のクレーターから四方に広がるレイ(光条)という模様が見やすくなります。 - 望遠鏡の接眼レンズの部分にスマートフォンなどのカメラを当てると、手軽に月の写真を撮影できます。
スマートフォン用のアダプターなどを使うと、レンズとカメラの角度を合わせたり手振れを防いだりすることができ、撮影しやすくなります。
- 月刊誌「星ナビ」では、白尾元理さん撮影の鮮明な画像と共に月の見どころや科学的側面を紹介するコーナー「GEOGRAPHY of THE MOON」を連載中です。
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アストロアーツのオンラインショップでは月の観察に適した望遠鏡や月球儀など、様々なグッズを取り揃えています。
いろいろな月の呼び方
ここに挙げるものはいずれも「(自然科学としての)天文学的な用語」ではなく、また「一般に広まった、定着した」とは言えない言葉もあります。身の回りの話題として取り上げるのは(これら以外の呼び方も)自由ですが、いかにも公的、学術的な用語であるかのように誤認させたり、超常的な話題と結び付けて大げさに語られたりすることには気をつけたいものです。
十五夜:芋名月
中秋の名月(十五夜の月)は、芋をお供えすることから「芋名月」とも呼ばれています。
なお、広い意味では十五夜は旧暦八月十五日に限ったことではなく、旧暦の毎月十五日の夜を指す言葉です。
十六夜
十五夜の翌日の月は十六夜(いざよい)と呼ばれます。「いざよう」とは「ためらう」という意味で、前日十五夜の月よりも遅くためらうようにして出てくることからの呼び方です。
南米チリのALMA電波望遠鏡は66台のパラボラアンテナから構成されており、このうち日本が開発した16台には「いざよい」という愛称がつけられています。
立待月、居待月、寝待月、更待月
十六夜以降の月には、順に「十七夜:立待月(たちまちづき)」「十八夜:居待月(いまちづき)」「十九夜:寝待月(ねまちづき)」「二十夜:更待月(ふけまちづき)」の呼び名があります。立待月は「立って待っていると出てくる月」という意味で、その後「座って」「寝て」「さらに夜が更けて」となります。
十三夜:後の月、豆名月、栗名月
十五夜から約1か月後となる旧暦九月十三日の月は「十三夜」「後(のち)の月」と呼ばれており、この日にもお月見をする習慣があります(十五夜と同様、毎月十三日の夜が十三夜ですが、とくに九月十三日を指すことが多いです)。2020年は10月29日です。
豆や栗をお供えすることから「豆名月」「栗名月」とも呼ばれます。
スーパームーン
一年に12~13回見える満月のうちで最も大きく見える満月のことを「スーパームーン」と呼ぶことがあります。2020年の場合は4月8日の満月(7日から8日にかけての月)がこれに当たりました。
天文学的な定義はありませんが(提唱者は占星術師とされています)、「月と地球が最接近するタイミングの前後で、満月(望)もしくは新月(朔)となったとき、その月をスーパームーンと呼ぶ」というのが一つの考え方です。この意味では「タイミングが合えば、当年で2番目の大きさの満月でも」「新月でも」スーパームーンとなりますが、「『満月』のうちで『一番』大きく見えるもの」が、とくに広く話題になるようです。
月は地球の周りを楕円軌道で公転し、地球の中心から月の中心までの距離は約36万kmから40万kmの間で変化します。最接近の距離も一定ではなく、「近い最接近」と「遠い最接近」があります。次回は2021年5月26日の10時50分ごろに月と地球が35.73万kmまで接近し、これが「満月の前後としては、2021年で最も月と地球が近い距離」になります(満月は26日20時14分ごろ)。
天体写真ギャラリー:
アストロアーツでの「スーパームーン」の考え方(言葉の使い方)
科学的な定義が決まっていない言葉ですが、アストロアーツでは現状“「月の近地点通過(月と地球が最接近するタイミング)」と「満月の瞬間」が「12時間(半日)以内」の場合、その前後の夜に見える満月”を指してスーパームーンと表記しています。「これが正しい」ではなく「このように考えることにしている」ということです。
※提供記事の場合などは、筆者の考えを尊重して(上記基準とは異なっていても)スーパームーンの呼び方を使用することがあります。
- 2020年4月8日の場合は約8.4時間差、2021年5月26日では約9.4時間差です。
- 2021年4月27日の満月と28日の地球最接近の時間差は11.9時間ですので、アストロアーツの基準ではこれもスーパームーンと呼べることになりますが、5月の満月のほうが距離、時間差ともに小さいことから、2021年についてはとくに5月のことを指すものとします。
- 日本の国立天文台では「スーパームーン」という言葉を使わず「年間最大の満月」と表現しています。この場合は距離や時刻に関わらず、毎年必ず1回だけ起こることになります。
- アメリカでは「距離36万km以内の満月」「月の近地点距離を基準として、ある距離範囲内にある満月」などを指してスーパームーンと呼んでいるようです。この場合、一年間で複数の満月がスーパームーンに該当することがあります(2021年4月の例など)。
ブルームーン、ブラックムーン
1か月の間に2回満月があるとき、その2回目の満月のことを「ブルームーン」と呼ぶことがあります。もともとは「一つの季節の間に4回満月があるときの3回目の満月」を指す言葉だったようですが、現在では「ひと月で2回目の満月」のほうがよく知られています。実際に満月が青く見えるわけではありません。
次回は2020年10月31日、さらにその次は2023年8月31日です。
一方、ブラックムーンはブルームーンの反対で、「1か月のうちで2回新月があるとき、その2回目の新月」を指して使われることがある言葉です。次回は2022年5月30日です。
なお、「満月や新月の瞬間」は世界共通ですが、そのタイミングを含む日付は場所によって1日前後することがあります。たとえば2020年10月31日は日本では満月ですが、ニュージーランドでは翌日11月1日が満月(の瞬間を含む日)となるので、もしニュージーランドに同様のブルームーンの考え方があったとしても、この日は該当しないことになります(そのかわり、ニュージーランドでは11月に満月が2回あります)。
ブルームーンなどに限らず(月に限らず一般に)、とくに海外発のニュースなどでは、それが日本時間でも同様かどうか気をつけましょう。
ブラッディムーン、ストロベリームーン
ブラッディ(またはブラッド)ムーンは「血のように赤い」月。地平線近くにあり地球の大気の影響で赤っぽく見える満月や、深い月食中の赤銅色の満月を指して呼ぶことがあります。
これの類推で「ストロベリー(フル)ムーン」も赤い満月のことだと思われがちですが、色とは無関係に一部の北米先住民族の間で「イチゴの収穫期に当たる、6月の満月」を指して呼ばれていました。他にも「4月:ピンクムーン」「11月:ビーバームーン」などの呼び方があります(参照:Full Moon Names (The Old Farmer's Almanac))。