やっぱり彗星?予想外の加速を受けるオウムアムア
【2018年7月2日 ヨーロッパ宇宙機関】
昨年10月にハワイのPan-STARRSサーベイで発見された天体オウムアムア(ハワイ語で「遠方からやってきた最初の使者」の意味)は、近日点が水星の軌道よりも太陽に近く、軌道傾斜角が非常に大きな軌道を持っている。観測の結果から、オウムアムアは太陽系外の恒星系からやってきた史上初の「恒星間天体」だとされている。発見されたのは近日点通過の1か月ほど後で、現在は木星軌道を越え、時速約11万4000kmで太陽から遠ざかっている。これは太陽の重力を振り切って太陽系から飛び出すのに十分な速度だ。
この謎の天体の正体は当初、彗星だと思われた。生まれ故郷の恒星系の重力を振り切って宇宙空間に飛び出す「恒星間彗星」は、同じようにして小惑星が宇宙空間に飛び出す「恒星間小惑星」よりも数が多いと考えられているためだ。しかし、オウムアムアを撮影した画像には、ガスを放出したり塵が取り巻いたりしているといった証拠がまったく見られなかったため、オウムアムアは恒星間小惑星として分類されることとなった。
だが、オウムアムアをめぐるこの話に、さらに驚くべき展開が待っていた。
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)のMarco Micheliさんたちの研究チームは、オウムアムアの発見直後の観測に引き続き、地上の天体望遠鏡やNASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)を用いてこの天体の精密な位置測定を続けた。彼らが撮影した最後の画像はHSTによって今年1月に得られたもので、これ以降、オウムアムアは太陽から遠ざかるととともに暗くなり、現在は撮影できないほど暗くなっている。
この追観測の結果、研究チームは、オウムアムアが太陽と惑星からの重力だけを受ける場合に辿るはずの軌道からわずかにずれているという予想外の事実を発見した。太陽から遠ざかるにつれてオウムアムアの速度は落ちていくが、この減速の割合が、重力の影響だけを受けている場合の値よりも小さいのだ。
この軌道のずれを厳密に分析した結果、太陽光が及ぼす圧力(放射圧)や太陽熱、太陽風の影響で軌道が変わったという説は否定された。別の天体がオウムアムアに衝突して軌道がずれたという説や、実はオウムアムアは2個の天体が重力でゆるく結び付いている、という説も検討されたが、いずれもありそうにないとして棄却されている。
「たくさんのアイディアを検討した結果、最も可能性が高いのは、オウムアムアは彗星で、表面から放出されるガスが軌道のわずかなずれを引き起こしている、という考え方です」(NASAジェット推進研究所 Davide Farnocchiaさん)。
彗星の核には氷が含まれていて、太陽に暖められると氷(固体)から水蒸気(気体)に昇華する。すると表面から塵が放出され、ぼんやりとした「コマ」や尾を作り出す。こうして核から噴き出すガスの圧力によって、重力だけが働く場合の軌道に対してずれが生じる可能性があるのだ。
しかし研究チームでは、HSTを使ってオウムアムアの長時間露出撮影を行ってみても、典型的な彗星に見られるような塵や彗星らしい化学的特徴をいっさい検出できなかった。これについて研究者たちは、オウムアムアが放出している塵の量が非常に少ないか、あるいはほとんど塵を含まないガスだけを放出しているために検出されなかったのではないか、という結論に達している。
「恒星間彗星は恒星間小惑星よりずっと数が多いという予測からすると、オウムアムアが当初小惑星のように見えたのはきわめて驚きでした。少なくともこの謎については、今回の発見で解決したことになります。オウムアムアは依然として奇妙な小天体ですが、私たちが得た結果からすると確実に、オウムアムアは彗星であって、小惑星の可能性はないという方に傾いています」(ヨーロッパ南天天文台 Olivier Hainautさん)。
「オウムアムアのような恒星間天体は科学的に魅力的ですが、非常にまれなものです。私たちの太陽系内からやってくる地球近傍天体はこれよりずっとありふれた天体で、地球に衝突のリスクをもたらすため、私たちは望遠鏡で毎晩空をスキャンする能力を高め続けています。こうした活動が、今回のような興味深い発見にも貢献しています」(ESA SSA-NEO調整センター Detlef Koschnyさん)。
(文:中野太郎)
〈参照〉
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