銀河中心ブラックホールの近傍で一般相対性理論を検証

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天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールのすぐ近くを通過する星の観測データから、重力場中の光の波長が長くなる現象「重力赤方偏移」が検出され、その様子が一般相対性理論の予測通りであることが示された。

【2018年8月2日 ヨーロッパ南天天文台

天の川銀河の中心には、太陽の400万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール「いて座A*」が存在している。非常に重力が強いこのような場所は、重力物理学の研究を進めるうえで最適であり、とくにアインシュタインの一般相対性理論を検証するのにうってつけである。

いて座A*の周囲にはブラックホールを高速で公転する星々があるが、そのうちの一つ「S2」が2018年5月に、ブラックホールから200億km未満のところを通過した。このときのS2の速度は、光速の約3%に当たる時速2500万kmを超えるものだった。

超大質量ブラックホールに接近したS2の軌道の一部
2018年5月19日に超大質量ブラックホールに200億kmまで接近したS2の軌道の一部を示したイラスト(提供:ESO/MPE/S. Gillessen et al.)

独・マックスプランク地球外物理学研究所のReinhard Genzelさんたちの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTを用いてこの現象を観測し、一般相対性理論の検証を行った。「天の川銀河の中心に存在するブラックホールへのS2の接近を観測したのは、これが2回目です。一般相対性理論が予測している現象を観測できる機会を最大限活用するために、数年前から集中的に観測の準備を進めてきました。観測機器の精度が向上したおかげで、これまでにない高解像度で観測ができました」(Genzelさん)。

VLTで観測された、約20年間にわたる天の川銀河の中心付近の星の動き(提供:ESO/MPE)

観測結果は、一般相対性理論による予測と極めてよく一致していた。一般相対性理論では、ブラックホールの強い重力場によって星の光の波長が引き伸ばされて長くなる現象「重力赤方偏移」が予測されていたが、今回の観測で、その現象がはっきりと確認されたのだ。

この現象は単純なニュートンの力学理論では現れないものである。超大質量ブラックホール周辺の星の動きのなかでニュートン理論からのずれが見られ、一般相対性理論が検証されたのは初めてのことだ。

アインシュタインが一般相対性理論を発表したのは100年以上も前だが、おそらく彼が想像したものをはるかに超える極端な条件下でも彼の理論が正しいことが、今回また証明されたわけである。「重力場の非常に強いところでも物理的な法則が成り立つのかどうかを確認することは、天文学においてとても重要なことです」(ヨーロッパ南天天文台 Francoise Delplanckeさん)。

超大質量ブラックホールとS2の位置
天の川銀河の中心(提供:ESO/L. Calçada)

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