太陽風は彗星の「塵の尾」にも影響を及ぼす
【2018年11月12日 NASA】
太陽系の外側にあるオールトの雲からやってくると考えられている彗星は、約46億年前に太陽系が作られたときから残っている凍ったガスや岩石、塵を含んだ塊だ。したがって、太陽系の初期の歴史についての重要な手がかりを含んでいる可能性がある。
彗星は太陽に近づくたびに熱で溶け、放出された塵は「ダストテイル」、気化したガスは「イオンテイル」として長く伸びた姿を見せる。この塵のふるまいを調べることは、数十億年前に塵が集まって小惑星や月、惑星を形成していった過程を知る手がかりにもなる。
2006年8月に発見され、2007年1月に近日点(太陽に最も近づく点)を通過したマクノート彗星(C/2006 P1)は、南半球の空で昼間でも見える大彗星となり、この50年間で最も明るくなった彗星の一つとして知られる。その尾は1億6000万km以上にもわたって伸び、縞模様に見えるきれいな扇形の「ダストバンド」が印象的な姿を見せた。
これと似たような尾の広がり方を見せた彗星として「1744年の大彗星」(クリンケンベルグ彗星、C/1743 X1)が知られており、6本の尾が扇形に広がるように見えたという記録が残っている。マクノート彗星の出現は、こうした尾ができる仕組みや、詳細な構造を解明するのに一役買うと期待された。
英・ミュラード宇宙科学研究所のOliver Priceさんたちは、太陽観測衛星「STEREO」と「SOHO」がとらえたマクノート彗星の画像から、尾の縞模様に不規則な切れ目のようなものを見つけた。
この箇所は「太陽圏電流シート」(太陽の磁場や磁極が変わる境界)の位置に当たるように見えたが、これは研究者達にとっては不思議なことだった。イオンテイルならともかく、マクノート彗星の塵は太陽風によって吹き飛ばされるには重すぎると考えていたからだ。
この謎を解くのは容易ではなかった。マクノート彗星は秒速約96kmもの速度でSTEREOとSOHOの視野をせわしく動いていった。観測データは豊富にあったものの、尾の変化の全体像を見極めるには、異なる探査機の異なるカメラ、異なる視点から撮影した画像を適切に統合解析する必要があったためだ。
塵のサイズや物理的条件、彗星の核から放出された時期などを考慮してシミュレーションを行った結果、2週間にわたる彗星の尾の構造と進化がわかり、尾がどのように崩壊して縞模様が見られるようになったのかが明らかになった。そして、やはり太陽圏電流シートがダストテイルにも影響していることがわかった。「彗星の尾が曲がっているのは、塵が帯電していて、太陽風がその塵の動きに影響しているという強い証拠です」(英・ロンドン大学 Geraint Jonesさん)。
この研究の結果は、過去に出現した彗星の尾の性質を明らかにし、今後の彗星の観測研究の重要な手がかりとなる。一方で、太陽系の形成や太陽系初期に太陽はどのような役割をしていたかという新たな疑問も生まれた。
「太陽風がマクノート彗星の尾の位置を変えたのを見ると、太陽風は太陽系初期の塵の集まり方にどれだけ影響を与えたのだろう、という新たな疑問も出てきました」(Jonesさん)。
〈参照〉
- NASA:New Insights on Comet Tails Are Blowing in the Solar Wind
- Icalus:Fine-scale structure in cometary dust tails I: Analysis of striae in Comet C/2006 P1 (McNaught) through temporal mapping 論文
〈関連リンク〉
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