衝突銀河の中心で成長中、衝突間近のブラックホールペア
【2018年11月14日 HubbleSite/ケック天文台】
銀河の中心には、太陽の数百万倍から数億倍以上もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。銀河同士が衝突、合体する際には、それぞれのブラックホールも合体して、さらに大きいブラックホールへと成長する。銀河の合体は10億年以上もかけてゆっくりと続くプロセスだが、コンピューターシミュレーションからは、その最後の1000万~2000万年ほどの間にブラックホール同士の合体が急速に進むことが示されている。
こうしたブラックホールの衝突、合体の様子を可視光線で観測するのは困難だ。銀河の衝突に伴って銀河内の大量のガスや塵が巻き上げられ、ガスや塵が合体中の銀河の中心部周辺に厚いカーテンを作るため、その奥のブラックホールが見えなくなるためである。その様子を調べるには、ガスや塵の雲を見通すことができる赤外線波長での観測が必要となる。
米・エウレカ・サイエンティフィック社のMichael Kossさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)や米・ハワイのケック天文台の望遠鏡を使った近赤外線サーベイで、衝突銀河中に見られるブラックホールのペアについて調べた。
Kossさんたちはまず、NASAの天文衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」によるX線観測データから、成長中のブラックホールが存在するであろう銀河を探し出した。「ガスがブラックホールへ落ち込むと高温になりX線を放射します。そのX線の明るさから、ブラックホールがどれほど速く成長しているかがわかります。合体中のブラックホールが見つかるかどうかはわかりませんでしたが、シミュレーションによれば、それらは大量の塵によって厚く覆われているだろうと考えられました。そこで、合体中のブラックホールが見つかることを願って、その塵の中を覗いてみようとしたのです」(Kossさん)。
続いて研究チームは、HSTのアーカイブでX線データで見つかった銀河を確認した。HSTのアーカイブで見つからなかったものについては、ケック天文台での近赤外線観測で確認を行った。こうして500個ほどの銀河を分析した結果、塵が豊富な衝突銀河の中心付近がX線で明るく見えるものは、そこに近接したブラックホールのペアが存在することが確かめられた。
ブラックホール同士はわずか3000光年まで接近しており、宇宙のスケールでは至近距離といえるほどまで近づいている。従来の衝突銀河の観測では、これほど合体の最終段階に近い例はなく、今回明らかになったブラックホール同士の距離の約10倍も離れている様子しかとらえられていなかった。「超大質量ブラックホールが互いに非常に接近し、銀河中心核同士の合体が進んでいる様子を見て、とても驚きました。画像に見られる2つの銀河中心核は、議論の余地のないほど実にはっきりとしています」(Kossさん)。
現在、天の川銀河とお隣のアンドロメダ座大銀河は接近しつつあり、数十億年後には合体すると予測されている。その際には、両銀河の中心の超大質量ブラックホールも衝突、合体するはずだ。今回の研究結果は、数十億年後に私たち(の子孫)の身近で起こる現象を予見させてくれるものともなった。ブラックホールの衝突現象では重力波も生じるはずで、今後はそうした手段によっても銀河やブラックホールの衝突の研究が進むことが期待される。
〈参照〉
- HubbleSite:Astronomers Unveil Growing Black Holes in Colliding Galaxies
- W. M. Keck Observatory:Astronomers Get Best View Yet of Supermassive Black Holes in Merging Galaxies, Slowly Moving on a Collision Course with Each Other
- Nature:A population of luminous accreting black holes with hidden mergers 論文
〈関連リンク〉
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