地球大気の流出量は磁気嵐のタイプによって異なる

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磁気嵐の発生時に地球の極域から宇宙空間へと大気が流出する現象について、コロナ質量放出に由来するタイプの磁気嵐の時に流量が特に多くなることがレーダー観測から明らかになった。

【2019年7月30日 国立極地研究所

太陽が放出するプラズマは「太陽風」と呼ばれ、地球に到達するとオーロラを発生させる要因となる。また、地球に到達した太陽風の影響により、地球の極域の上空で大気中のイオン化した酸素原子などが宇宙空間へと流出することがある。特に、オーロラ爆発が起こる時には、同時に大量のイオンが超高層大気中から上昇することが、これまでの研究でわかっている。

太陽から大量かつ高速のプラズマがやってくると、しばしば地球の磁場が乱れる「磁気嵐」が発生する。磁気嵐が起こるときにはオーロラ爆発が頻繁に発生するため、極域でのイオンの上昇流も頻繁に起こっていると考えられる。しかし、その時間変化や上昇流量についての観測は十分ではなく、磁気嵐との関係も不明のままだった。

国立極地研究所の小川泰信さんたちの研究グループは、ノルウェーに設置され日本など6か国が共同運用している「EISCAT(欧州非干渉散乱)レーダー」の超高層大気観測データを用いて、磁気嵐と上昇流の関係について解析を行った。

EISCATスバールバルレーダー
EISCATスバールバルレーダー(提供:小川泰信さん)

小川さんたちはノルウェーのトロムソ(北緯69度)と、同国スバールバル諸島ロングイヤービン(北緯78度)の2か所の観測データから、過去20年間(1996年~2015年)に磁気嵐が起こっていたときの高度400~500kmでの観測データを取り出し、磁気嵐時の上昇流の特徴(大気イオンの上昇流量や上昇速度)を調査した。その際、磁気嵐を引き起こす要因が、高速の太陽風が先行する低速太陽風に追いつく現象(共回転相互作用領域:CIR)であった時と、太陽フレアに伴う突発的な太陽の爆発現象(コロナ質量放出:CME)であった時の2種類を区別して調べた。

その結果、トロムソでは発生初日に夜間のイオン上昇流量が激増し、CME起源の磁気嵐での流量はCIR起源の場合の4倍になることがわかった。一方、スバールバルでは昼にイオン上昇流量が増加し、CME起源とCIR起源で流量の差は見られなかった。

トロムソとスバールバルで観測されたイオン上昇流量の日変化のグラフ
ノルウェーのトロムソ(北緯69度、磁気緯度66度)とスバールバル(北緯78度、磁気緯度75度)で観測されたイオン上昇流量の日変化。4つの時間帯を色分け(MLT:磁気地方時。自転軸から約11度傾いている磁軸を使って定義した地方時)。緯度の低いトロムソではCME発生時に夜側で、緯度の高いスバールバルではCMEまたはCIR発生時に昼側で、イオンの上昇する流量が顕著に増えていることがわかる(提供:国立極地研究所リリースページより、以下同)

また、夜間のイオン速度増加が起こっているときには、超高層大気中の電子とイオンの温度が共に上昇することもわかった。これは極域のはるか上空で、エネルギーの低い電子の降下と、電場の増大の両方が夜間に起こっていることを示唆している。さらに、CME発生時にトロムソで見られたイオンの上昇流量の増大は、多量の降下粒子に伴って超高層大気中のイオンの密度が増えることに起因することもわかった。

CIRとCME起源の磁気嵐の発生初日における極域イオン上昇流
CIRとCME起源の磁気嵐の発生初日における極域イオン上昇流の特徴をまとめたイラスト。赤点線と青点線は観測所の位置(一自転中の通り道)を示す

このような地球大気の流出に関する基本的な性質や機構の理解は、火星や金星などの他の惑星大気が太陽風の変化に対してどのように反応するかをシミュレーションなどによって理解する研究にも貢献すると期待される。研究グループは今後、異なる高度での特徴を明らかにし、より低高度での調査から、重い分子イオンがいつどこで上昇しているかを調べたいと考えている。