太陽風が吹くと太陽圏が膨らむ

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2014年に圧力が5割増加した太陽風が太陽圏に与えた影響が最新の研究によって調べられ、太陽圏が膨らんだり変形したりする様子が明らかになった。

【2018年6月14日 NASA

太陽から超音速で噴き出す太陽風は、惑星の軌道をはるかに超えた外側にまで達している。広がっていく太陽風は、太陽から約150億km離れた「末端衝撃波面」と呼ばれる位置で減速し始め、「ヘリオシース」と呼ばれる領域の中をさらに進んでいく。最終的に太陽風の速度がゼロになる位置が「ヘリオポーズ」で、これより内側、つまり太陽風が届く範囲のことを「太陽圏(ヘリオスフィア)」と呼ぶ。

太陽圏の構造を示したイラスト
太陽圏の構造を示したイラスト。惑星軌道のはるか外側にある1つ目の円が「末端衝撃波面」(Termination Shock)、そこを越えた領域が「ヘリオシース」、その先が太陽圏の端である「ヘリオポーズ」(Heliopause)(提供:NASA/IBEX/Adler Planetarium)

2014年後半、太陽風の圧力が約5割も増加していることがNASAの探査機による観測で明らかになり、その状態は数年続いた。2年後の2016年後半、NASAの星間境界観測衛星「IBEX」が、通常とは異なる強い信号をとらえた。

米・プリンストン大学のDavid McComasさんたちの研究チームは、増加した太陽風の圧力の影響を受けた太陽圏全体の様子を数値シミュレーションによって再現し、強い信号の原因が太陽風の圧力増加によるものらしいことを明らかにした。

McComasさんたちのシミュレーションでは、太陽風が末端衝撃波面にぶつかって圧力波を形成しヘリオシース内を進んでいく様子や、ヘリオポーズで圧力波の一部が跳ね返って再びヘリオシースや末端衝撃波面を通り地球付近まで戻ってくる様子が再現された。ヘリオシースでは荷電粒子である太陽風が恒星間空間の物質と相互作用することで中性原子が作られる。この高エネルギーの中性原子が戻ってきたものが、2016年にIBEXで観測されたのである。

太陽風の荷電粒子がどのようにしてIBEXが検出した高エネルギー中性原子となるのかを示した動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)

さらに、シミュレーションの結果によれば、末端衝撃波面は約10億km拡大したはずであり、ヘリオポーズも約3億km拡大するはずであることもわかった。

一方、プリンストン大学のEric Zirnsteinさんたちの研究チームは、McComasさんたちのシミュレーションをさらに進めて、未来の太陽圏の予測を行った。それによると、IBEXによって観測される高エネルギー中性原子の広がりは2016年は円形だったが、跳ね返って戻ってくるまでの時間の差や跳ね返る場所に応じて形が変わっていき、だんだんと非対称に崩れた環状になっていくと考えられるという。これをもとに、高エネルギー中性原子が広がる速度や環の形から、末端衝撃波面までの距離や太陽圏の形などを知ることができる。

リング状となって広がる高エネルギー中性原子の変化
時間の経過につれて環状に広がっていく高エネルギー中性原子の量(提供:Eric Zirnstein)

「太陽の変化と高エネルギー中性原子の観測の組み合わせは、危険な宇宙の放射線環境の長期的変化を理解するのに役立ちます。太陽風の強弱で太陽圏が広がったり縮んだりすることは、太陽圏へ入ってくる宇宙線の量の変化に直接影響します。これは、宇宙空間に長期滞在する宇宙飛行士への潜在的な危険性にもつながります」(McComasさん)。