衝突しつつある超大質量ブラックホールのトリオ

このエントリーをはてなブックマークに追加
X線天文衛星「チャンドラ」などの観測から、3つの超大質量ブラックホールからなる衝突銀河の様子がとらえられた。

【2019年9月30日 NASA JPLチャンドラ

かに座の方向約10億年の距離に位置する「SDSS J084905.51+111447.2」(以降、J0849)は、市民科学者たちが協力する銀河分類プロジェクト「Galaxy Zoo Project」で、複数の銀河が衝突しつつある状態にあると考えられている天体である。

NASAのX線天文衛星「チャンドラ」や赤外線天文衛星「WISE」などの観測により、このJ0849の正体は、3つの銀河が互いに接近しているものであることが明らかになった。これはつまり、それぞれの銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールも衝突する運命にあることを意味している。3つの超大質量ブラックホール同士の距離は約1万~3万光年ほどだ。

SDSS J0849+1114のX線と可視光線画像
SDSS J0849+1114。左下の四角内がチャンドラがとらえたX線画像、背景画像はハッブル宇宙望遠鏡とスローン・デジタル・スカイサーベイによる可視光線(赤、緑、青)画像(提供:X-ray: NASA/CXC/George Mason Univ./R. Pfeifle et al.; Optical: SDSS & NASA/STScI)

3つの超大質量ブラックホールのうち1つの周囲には、大量のガスと塵が存在する証拠が見つかっている。これは合体過程にあるブラックホールに典型的に見られる特徴だ。こうした天体はガスや塵に覆い隠されているため可視光線で発見するのは難しいが、X線や赤外線といった多波長の観測データを組み合わせることで発見が可能になる。

「私たちははじめ、ブラックホールのペアを探していたのですが、その研究過程で3つの超大質量ブラックホールからなるJ0849を見つけました。活動銀河核(活発に活動している超大質量ブラックホール)が3つ接近しているような天体としては、これまで最も確実性の高いものです。今後、今回のように複数の望遠鏡を使うという手法によって、さらに多くの3重ブラックホールを発見したいと考えています。」(米・ジョージ・メイソン大学 Ryan Pfeifleさん)。

「2重や3重の超大質量ブラックホールはきわめて珍しいですが、銀河は衝突と合体を繰り返して大きくなるという考え方に基づけば、こうした多重ブラックホールの存在は自然かつ必然的なものなのです」(同大学 Shobita Satyapalさん)。

3つのブラックホールが相互作用を起こすと、2つだけのブラックホールが合体してより大きくなるよりもずっと速く、3つのうちの2つのブラックホールが合体する。ブラックホールが2つだけの場合、お互いの距離が数光年以内まで接近しても、公転運動のエネルギーの大きさのためになかなか合体するほどまで近づけないが、3つ目のブラックホールがあればこの問題が解決するのだ。コンピューターシミュレーションによれば、衝突銀河内の超大質量ブラックホールのペアのうち16%は、合体前に3つ目のブラックホールと相互作用することが示されている。

J0849の紹介動画(提供:Images: NASA/CXC/George Mason Univ./R. Pfeifle et al.; Animations: NASA/CXC/A. Jubett; Music: Mylonite Recordz Production)

関連記事