50億光年彼方のクエーサーの中心ジェットを高解像度観測

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史上初めてブラックホールの撮影に成功した「イベント・ホライズン・テレスコープ」が同じ時期に行っていた観測で撮影した、50億光年彼方のクエーサーの中心で輝くジェットの高解像度画像が公開された。

【2020年4月13日 イベント・ホライズン・テレスコープ

世界の8つの電波望遠鏡をつなぎ合わせて地球サイズの仮想電波望遠鏡を作り上げる「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope; EHT)」プロジェクトが史上初となるブラックホール画像を発表したのは、ちょうど1年前のことだ(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)。このときに観測されたのは、5500万光年と比較的近い距離にあるおとめ座の銀河M87の中心に存在する超大質量ブラックホールだったが、同じ2017年4月にEHTは、さらに遠方にある銀河の中心核も観測していた。

この銀河の中心核には太陽のおよそ10億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在している。これは天の川銀河の中心部にあるブラックホールの200倍以上もの質量だ。このように巨大な質量を持つブラックホールに大量のガスが落下すると、莫大なエネルギーが解放されて非常に強い光が放射される。そのような天体が地球から非常に遠くにあると、銀河全体よりも中心核が点状に明るく輝き、「クエーサー」と呼ばれる種類の天体として観測される。今回観測されたのは、50億光年彼方に位置するおとめ座の「3C 279」というクエーサーだ。

超大質量ブラックホールに流れ込むガスは周囲に円盤を形成し、その一部が細く絞られたガス流(ジェット)として光速に近い速度で円盤の両側に噴き上げられると考えられている。独・マックスプランク電波天文学研究所のJae-Young KimさんたちはEHTを使い、これまでにない20マイクロ秒角という超高解像度で3C 279のジェットを観測した。この値は3C 279が位置する50億光年の距離で0.4光年のサイズを分解できるほどで、月面に置かれたオレンジが地球から見える視力に相当する。

様々な波長の電波で観測された3C 279のジェット
2017年4月に様々な波長の電波で観測した3C 279のジェット。(左上)米・VLBAが16日に波長7mmで観測。(左下)グローバルミリ波VLBIアレイ(GMVA)が1日に波長3mmで観測。(右)EHTが11日に波長1.3mmで観測(提供:J.Y. Kim (MPIfR), Boston University Blazar Program, and Event Horizon Telescope Collaboration)

ブラックホール周囲の円盤の両側に伸びるジェットは通常まっすぐだが、観測データを解析した結果、3C 279のジェットが少しねじれた形状をしていること、本来のジェットの方向に対して垂直に伸びる構造が見えることがわかった。また、4日間の観測の間にその形状は細かく変化していたが、こうした変動はこれまで理論シミュレーションでしか見られていないものだった。このような変動は降着円盤の回転とガスの降着、ジェットの放出の様子を知る手がかりになると考えられる。

「宇宙への新しい窓を開けた時には、必ず新しい発見があることを私たちは知っています。可能な限り高解像度な観測をすることでジェットが形作られる領域を見ることができると期待していたところで、私たちはジェットに垂直な構造を見つけたのです。マトリョーシカを順に開けていって、最後にまったく違う形の人形が出てきたようなものです」(Kimさん)。

観測で明らかになった予想外のジェットの構造は、回転し折れ曲がったジェットの内部に衝撃波や不安定性が存在することを示している。これらは3C 279で観測される高エネルギーガンマ線の起源である可能性も考えられる。

「今回観測されたクエーサーは、宇宙で最も強力なジェットを噴出する巨大ブラックホールとして長年知られています。その一方でクエーサーはブラックホール・シャドウが撮影されたM87よりも地球からはるか遠くに位置するため、ジェットの根元の構造を詳しく撮影するにはこれまで以上に高い視力が必要でした。今回の成果は、EHTがブラックホール撮影のみならず、強力なジェットの生成メカニズムの解明にも極めて有効であることを示しています」(国立天文台 秦和弘さん)。

EHTの観測は毎年北半球の春の季節に行われており、2020年3月から4月にも観測が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために中止を余儀なくされた。「私たちは、2017年に得たデータを論文化するための活動と、新しい望遠鏡を加えて2018年に取得したデータの解析に集中しています。2021年春に、11台の望遠鏡でEHT観測を行うことを楽しみにしています」(EHT副プロジェクトディレクター/MITヘイスタック観測所 Michael Hechtさん)。

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