フォーマルハウトb消失、系外惑星ではなかった可能性
【2020年4月23日 HubbleSite】
太陽以外の恒星の周りを回る系外惑星は、ほぼ全てが間接的な証拠、つまり惑星が存在することで恒星の光に生じるわずかな変化をとらえることで発見されている。そのため、2008年に、みなみのうお座の方向25光年彼方にある1等星フォーマルハウトに惑星「フォーマルハウトb」が直接観測によって見つかったという発表は画期的な成果だった(参照:「ハッブル宇宙望遠鏡、系外惑星を初めて撮影」)。これはハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2004年と2006年にフォーマルハウトの周囲を撮影した画像に小さな点が写っており、しかも移動していることから惑星と見なされたものである。2015年には系外惑星命名キャンペーンの一環として、フォーマルハウトbに「ダゴン」という名前が付けられた。
その後もいくつかの系外惑星が直接撮像されているが、その第1号であるフォーマルハウトbにはたびたび実在しない疑惑が持ち上がっている。たとえば、HSTが撮影した可視光線では異常に明るく見えているにもかかわらず、惑星の熱によって放射されるはずの赤外線はまったく検出されなかったという研究報告がある(参照:「世界で初めて直接撮像の系外惑星「フォーマルハウトb」は惑星ではなかった?」)。また、フォーマルハウトbの公転軌道とされるものは極めて細長い楕円状に見え、とても特異な形状だ。
米・アリゾナ大学のAndrás GáspárさんとGeorge Riekeはこのたび、HSTが最初にとらえたフォーマルハウトbの光は惑星ではなかったと結論づける論文を発表した。「私たちは、HSTが観測したフォーマルハウトの記録のうち手に入るもの全てを分析しました。明らかになった特徴を総合すると、惑星サイズの天体は最初から存在しなかったということになります」(Gáspárさん)。
ダメ押しとなったのは、HSTが2014年に撮影した画像ではフォーマルハウトbが消失していたことだ。さらに、それ以前の画像をたどると、物体が徐々に暗くなっていたことが判明した。「このようなふるまいは、正真正銘の惑星に求められるものではありません」(Gáspárさん)。
2人の解釈によれば、HSTがとらえた「フォーマルハウトb」の正体は、2つの氷天体が衝突してまき散らした氷と塵の雲である。衝突が起こったのは2004年の初観測からそれほど昔にさかのぼらない時期であったと考えられる。現在では雲は太陽を巡る地球の軌道を包んでしまうほどまでに拡散し、HSTでは検出不能なまで暗くなっているとみられる。
フォーマルハウトの周りには氷を多く含む微小天体からなる環が存在し、フォーマルハウトbはその中で見つかった。太陽系の外縁にも氷天体が集まったカイパーベルトが広がっており、この領域は彗星の起源とされているが、フォーマルハウトの周りで衝突した氷天体はまさに大きな彗星のようなものだったとGáspárさんたちは考えている。氷天体の大きさはそれぞれ直径200kmほどと見積もられるが、フォーマルハウトの周囲でこれほどの大きさの天体同士が激突する頻度は20万年に1回程度だという。「これほど珍しいできごとをHSTで目撃できたのは、私たちがいいタイミングでいい所にいたからなのだと思います」(Gáspárさん)。
〈参照〉
- HubbleSite:Exoplanet Apparently Disappears in Latest Hubble Observations
- Proceedings of the National Academy of Sciences:New HST data and modeling reveal a massive planetesimal collision around Fomalhaut 論文
〈関連リンク〉
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