ボリソフ彗星からの水が示す活動性や太陽系彗星との相違
【2020年5月7日 NASA】
2019年8月30日に発見されたボリソフ彗星(2I/Borisov)は、その後の追観測によって、2017年10月に発見されたオウムアムア(1I/'Oumuamua)に続く史上2例目の恒星間天体(太陽系の外からやってきた天体)であることが明らかになった。また、早い段階から彗星活動が確認され、史上初の恒星間彗星でもあることがわかっている(参照:「観測史上2例目の恒星間天体、新発見のボリソフ彗星」)。ボリソフ彗星は2019年12月8日に近日点を通過し、現在は太陽から約3.8天文単位の距離(火星軌道と木星軌道の間)にあって、太陽から遠ざかりつつある。
一般に、彗星は太陽に接近して温度が上がると、核の表面に存在する二酸化炭素などの物質が固体から気体へと昇華する。太陽から3億7000万km(2.4天文単位、火星と木星の間)の距離まで近づくと、水の氷が水蒸気へと昇華し始める。気体になった水分子(H2O)は太陽光によって分解され、酸素原子と水素原子が結びついたヒドロキシルラジカル(OH)という分子ができる。
香港大学/米・オーバーン大学のZexi Xingさんたちの研究チームは、NASAのガンマ線バースト観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」の紫外・可視光望遠鏡(UVOT)を使い、2019年9月から2020年2月まで6回にわたって同彗星の観測を行った。彗星の周りに存在するOHラジカルは紫外線を放射するので、この紫外線の強さを測定すればOHラジカルの量がわかり、彗星から放出された水の量を見積もることができるのだ。
「スウィフトは機体の姿勢変更の反応時間が速く、また紫外線を観測する能力もあるおかげで、ボリソフ彗星の水の生成率を調べることができました」(オーバーン大学 Dennis Bodewitsさん)。
観測の結果、近日点通過直前の1か月間で、ボリソフ彗星の周囲のOHラジカルが50%も増えたことがわかった。また、彗星活動が最も活発な時期には、毎秒30リットルもの水が彗星核から放出されていた。ボリソフ彗星が太陽系内を通過する間に放出した水の総量は、約2億3000万リットルと見積もられている。これはオリンピックの競技用プール92杯分にもなる量だ。
また、ボリソフ彗星が太陽から離れると水の放出量は減少したが、その減少のスピードはこれまでに観測されたどの彗星よりも急激だったことがわかった。Xingさんはその理由について、彗星核の表面が太陽光で侵食された、核の自転速度が変化した、核自体が分裂したなど、様々な要因が考えられるとしている。実際、ハッブル宇宙望遠鏡やその他の望遠鏡の観測から、3月後半にボリソフ彗星で核の分裂が起こったことが示されている。
Xingさんたちは今回の観測から、ボリソフ彗星の核の直径を740m以上と見積もっている。また、太陽への最接近時には彗星核の表面の55%(皇居の約1.5倍の広さ)以上の領域で物質の放出が活発に起こっていたと計算している。これは太陽系の多くの彗星と比べて10倍以上も表面の活動領域が広かったことを示唆している。
ボリソフ彗星では他にも、太陽系の彗星とは異なる特徴が見られている。たとえば、HSTやアルマ望遠鏡による観測から、ボリソフ彗星は太陽系の彗星に比べて一酸化炭素 (CO) の放出量がかなり多かったことがわかっている(参照:「外来のボリソフ彗星、太陽系の彗星と異なる組成」)。
一方で、太陽系の彗星との共通点もある。ボリソフ彗星が太陽に近づいた際の水の放出量の増え方は、これまでに観測されている彗星と同程度だった。また、水や一酸化炭素以外の分子の組成や存在比は太陽系の彗星と大差ないことがわかった。たとえば、ボリソフ彗星ではOHラジカルやシアン(CN)に比べてC2やアミドゲン((NH2)といった分子の存在量が少ない。こうした特徴は太陽系の彗星の25~30%が持っている。
しかし、これまでに明らかになったボリソフ彗星の特徴全てに当てはまるようなタイプの彗星は太陽系では知られていない。
「ボリソフ彗星の特徴は、太陽系の彗星のどのグループにもぴったり当てはまるわけではありませんが、突出して例外的だとも言えません。数ある特徴の少なくとも1つが共通するような彗星ならいくつも存在します」(Xingさん)。
太陽系外の惑星系での彗星の進化にとって、今回の結果がどういう意味を持つのか、科学者たちはさらに追究を続けている。
〈参照〉
- NASA:NASA’s Swift Mission Tallied Water From Interstellar Comet Borisov
- The Astrophysical Journal Letters:Water Production Rates and Activity of Interstellar Comet 2I/Borisov 論文
〈関連リンク〉
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