複雑な生命体のハビタブルゾーンは従来の見積もりより広い
【2020年5月18日 東京工業大学】
液体の水が岩石惑星の表面に安定して存在することが可能な領域を「ハビタブルゾーン」と呼ぶ。ある惑星系のハビタブルゾーンは、単純には中心星の表面温度と中心星からの距離で決まり、太陽系の場合であれば地球から火星軌道付近がこの範囲だ。ハビタブルゾーンは、太陽系外で生命が存在可能な惑星を発見するための指標として使われるが、実際にこの領域にある惑星に生命が存在できるかどうかは、中心星の活動性や惑星の質量、自転の様子、大気の量と組成、どのような生命体か、などに大きく左右される。
東京工業大学のRamses Ramirezさんは、人間を含む哺乳類のほか鳥類や爬虫類など、空気呼吸を行う「複雑な生命体」の呼吸に必要となる窒素・二酸化炭素大気分圧の限界値を、実験結果と理論予想をもとにして導き、この限界値から「複雑な生命体のハビタブルゾーン(CLHZ)」を新たに求めた。
Ramirezさんは過去に見積もられた二酸化炭素呼吸の限界値を見直し、初めて窒素呼吸の限界値を見積もって、地球上の複雑な生命体は二酸化炭素分圧約0.15バール、窒素分圧約3バールを上回る大気中では呼吸できないことを発見した。これらの呼吸限界を超えると麻酔効果が現れ、この状態に継続的に置かれると致命的になる可能性が高くなるという。
今回の研究で示されたCLHZは一般的なハビタブルゾーンよりも狭い領域だが、同時にCLHZはこれまでの見積もりより約35%広くなることも示された。これは、複雑な雲モデルを用いることで冷却効果を見直したり、惑星の緯度による温度の違いを考慮したりした結果だ。
さらに、今回のモデルでは、太陽より高温のA型星(ベガやシリウスなど)から低温のM型星(アンタレスやベテルギウスなど)まで幅広いタイプの恒星の周りにある惑星についてもCLHZが広くなることも予測される。複雑な生命体は従来の予想よりも広い範囲で宇宙に遍在する可能性を示唆する成果である。
今回の研究は地球の生命と全く異なる進化の歴史をたどった地球外生命には適用できない可能性もあるが、そうであったとしてもCLHZは有用なベースラインの仮定となりうるものとなる。「宇宙生物学や地球外知的生命探査では、地球外生命探査において地球中心的アプローチをとっています。たとえば、地球外の知的生命は水を必要とするという推測や、それらは電波シグナルを送信するという推測です。それと同じように、複雑な地球外動物は地球生命と同じような呼吸限界を持つかもしれないと仮定したのです。CLHZは動物の存在する惑星を探す上で適切な概念です。しかし、他のハビタブルゾーンの定義も生命を宿す可能性のある惑星一般を探す上で使用されるべきです」(Ramirezさん)。
〈参照〉
- 東京工業大学:複雑な生命体のハビタブル・ゾーンは従来の見積もりよりも広かった
- Scientific Reports:A Complex Life Habitable Zone Based On Lipid Solubility Theory 論文
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