ブラックホールに飲み込まれる星の最期の輝き
【2020年10月19日 ヨーロッパ南天天文台】
エリダヌス座の方向2億1500万光年の距離にある銀河で2019年9月に起こった発光現象「AT 2019qiz」は、銀河中心の超大質量ブラックホールによって恒星が引き裂かれる「潮汐崩壊」に伴うものだと考えられている。これまでに観測されたこのタイプの現象のうちで最も地球に近く、発生直後から世界中の望遠鏡が向けられて詳細な研究が行われた。
理論的には、ブラックホールによる恒星の潮汐崩壊でどんなことが起こるのかはわかっている。「さまよう星が不運にも、銀河の中心にある超大質量ブラックホールに接近しすぎると、星はブラックホールの強い重力の影響で細かく引き裂かれ、細長い物質の流れになってしまうのです」(ヨーロッパ南天天文台 Thomas Weversさん)。天体がスパゲッティのように引きのばされることから、この現象は「スパゲッティ化現象」とも呼ばれている。
スパゲッティ化現象では、細長く引き裂かれた恒星の物質の一部がブラックホールへと落ち込む際に解放されるエネルギーで、遠方から観測できるほど明るいフレアが生じるはずだ。ところが、潮汐崩壊の光は塵や残骸の煙幕に遮られ減光されていることが多く、観測は難しかった。
その煙幕の正体は、英・バーミンガム大学のMatt Nichollさんたちの研究チームがヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTなどを使って6か月間にわたり行った観測や、AT 2019qizの発生直後から幅広い波長で実施された観測のおかげで、ようやく明らかになった。ブラックホールが恒星の物質を食い尽くすことで放出されるエネルギーにより、星の残骸が最大秒速1万kmで外側へと勢いよく押し出されているのだという。「ブラックホールが恒星を引き裂く際に、爆発的に物質が外側へ向かって放出されるために視界が遮られることがわかりました」(バーミンガム大学 Samantha Oatesさん)。
今回の観測により、恒星から流出した物質とそれがブラックホールに飲み込まれたことで生じた明るいフレア現象との直接的なつながりが初めて明らかになった。「恒星の質量は太陽とだいたい同じくらいだったこと、その100万倍以上もの質量を持つブラックホールによって、恒星の質量の約半分が失われたことが示されました」(Nichollさん)。
〈参照〉
- ESO:Death by Spaghettification: ESO Telescopes Record Last Moments of Star Devoured by a Black Hole
- CfA:Scientists Get Front-Row Seats to Star's Death by Spaghettification
- MNRAS: An outflow powers the optical rise of the nearby, fast-evolving tidal disruption event AT2019qiz 論文
〈関連リンク〉
- ESO
- Transient Name Server:AT 2019qiz
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