アルマ望遠鏡が観測した、混沌とした惑星誕生現場の姿

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若い恒星「Elias 2-27」を取り巻く原始惑星系円盤の塵とガスの分布をアルマ望遠鏡で観測した結果、円盤自身の重力から生じる不安定性によって円盤の物質が大きくかき乱されている様子が明らかになった。

【2021年7月8日 アルマ望遠鏡

ガスと塵が集まって恒星が誕生する際、若い星の周りに物質が円盤状に集まる。この原始惑星系円盤の中から惑星が誕生するが、どのような過程で形成されるかについてはまだ謎が多い。ヨーロッパ南天天文台のTeresa Paneque-Carreñoさんたちの研究チームは、円盤内の物質同士の間に働く重力で円盤の形が大きく乱される「重力不安定」に注目している。重力不安定によって円盤が小さな塊に分裂し、惑星の種になる可能性があるからだ。

研究チームの一員でもあるチリ大学のLaura Pérezさんは、2016年にアルマ望遠鏡でへびつかい座の方向約378光年の距離にある若い恒星「Elias 2-27」の原始惑星系円盤を観測し、2本の大きな渦巻き構造を発見している(参照:「渦巻きの腕に抱かれる生まれたての星」)。このような渦巻き構造が重力不安定で作られるのか、それとも既に誕生した惑星や近くの伴星によって生じるのかについては議論の的となっていた。

Elias 2-27の原始惑星系円盤
(上4枚)「Elias 2-27」の原始惑星系円盤と周囲に存在する異なる速度のガスや塵の分布。擬似カラーは、青が波長0.87mmの電波で観測した塵の分布、黄がC18O分子の放射、赤が13CO分子の放射をそれぞれ示す。(下)アルマ望遠鏡が観測したElias 2-27の原始惑星系円盤。画像クリックでアニメーション表示(提供:Teresa Paneque-Carreño / Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF)

Paneque-Carreñoさんたちはアルマ望遠鏡で塵とガスが発する電波を同時に観測し、円盤物質の動きを詳しく分析した。観測するガスとしては一酸化炭素(CO)を選んだが、その中でも炭素の同位体13Cと酸素の同位体18Oをそれぞれ含む13COとC18Oが発する特定の電波を対象とすることで、周囲の星間物質からの信号が紛れないように工夫している。

その結果、この種の天体としては初めて、円盤の垂直方向でガスの分布にゆらぎがあることがわかった。この現象は伴星の影響では説明できず、円盤内における物質の落下に関わっている可能性があるという。また、塵の分布も重力不安定モデルに基づくシミュレーションと一致することから、Elias 2-27の渦巻きは重力不安定によって形成されたのだと研究チームは結論づけている。

Elias 2-27の原始惑星系円盤のイラスト
(左)Elias 2-27の原始惑星系円盤の現在の様子を示したイラスト。円盤に重力不安定性が働いて惑星形成が起こるとみられる。中心がElias 2-27、紫色が2016年に発見された渦巻き構造(中央の四角内の薄い赤や黄が、物質の落下を示唆する垂直方向への非対称なガスの流れ)、ピンク色が原始惑星系円盤。円盤全体に小さな塵が分布し、渦巻き構造には大きな塵の粒子も分布している。(右)形成後の惑星系の想像図(提供:Bill Saxton, NRAO/AUI/NSF)

円盤内におけるCOの動きを正確に調べることができたおかげで、それに対して中心の星や円盤が及ぼしている重力の大きさも見積もることができた。伊・ミラノ大学/仏・リヨン高等師範学校のBenedetta Veronesiさんが中心となってまとめた論文では、こうして得られたElias 2-27の原始惑星系円盤の質量を発表している。「これまでの原始惑星系円盤の質量測定は、塵や希少な同位体分子の観測に基づく間接的なものでしたが、今回の研究により、円盤の質量全体を見積もれるようになりました。この発見は、円盤の質量を測定する方法を開発するための基礎となるもので、惑星形成の分野における最大の障壁の一つを打ち破ることができます。円盤に存在する惑星材料物質の総質量を知ることで、惑星系の形成プロセスをより深く理解できます」(Veronesiさん)。

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