月面で2種類のサンプルが得られる地点、「かぐや」データ解析から判明

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月周回衛星「かぐや」のデータの解析から、月のマントルおよび形成初期の地殻に由来する2種類の鉱物が共存する地点が見つかった。将来サンプルリターンを行う候補地点となるかもしれない。

【2022年2月22日 JAXA宇宙科学研究所

月面への天体衝突で作られた巨大盆地の周辺では、カンラン石に富む岩体が数百m~数kmにわたって存在する「カンラン石サイト」が見つかっている。カンラン石サイトは月面全体で約50か所と極めて珍しい存在であり、そのうち2つでは、98%以上が斜長石の岩体(純粋斜長岩)がカンラン石の岩体に隣り合っていることがこれまでに報告されている。

カンラン石に富む物質は月の深部にある上部マントル由来と考えられる一方、純粋斜長岩は形成初期の月がマグマオーシャン状態から冷えたときに形成された原始地殻に由来すると考えられる。両者が隣り合う「共存サイト」がどのようにして形成されたのかを理解することは、月の構造や組成、さらに進化の過程の深い理解につながると期待される。

共存サイトの例
カンラン石に富む物質(緑色の領域)と純粋斜長岩(赤色の領域)が非常に近く隣り合って分布する共存サイトの例。(a)は鳥瞰図、(b)は破線領域にある共存サイトを拡大したもの(提供:JAXA宇宙科学研究所リリース、以下同)

国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターの山本聡さんたちの研究チームは、日本の月周回衛星「かぐや」のマルチバンドイメージャが取得したデータから共存サイトを探し、その地質構造を解析した。さらに「かぐや」による地形データと組み合わせて、鉱物・岩石分布の鳥瞰図を作成し、カンラン石と斜長岩露頭の位置関係や地質構造を詳細に調べた。

その結果、カンラン石サイト49か所のうち14か所が純粋斜長岩との共存サイトであることがわかった。これらの共存サイトは、巨大盆地の衝突により円環状に隆起した部分(ピークリング)の急斜面や、小さな衝突クレーターで見つかっている。

衝突盆地周囲でのカンラン石サイトの分布例
衝突盆地周囲でのカンラン石サイト(赤丸)の分布例(左の「危難の海」と呼ばれる巨大衝突盆地の南側に位置するピークリングの崖で見つかった共存サイトは、直径1kmサイズのクレーターに見られる)。黄色で囲まれたところが純粋斜長岩との共存を示す場所。大きな点線丸が衝突盆地のピークリングに相当する部分。背景は「かぐや」による地形データ

一方、ただのカンラン石サイトと共存サイトとの間では、地質的な特徴の点では何も違いが見られなかった。両者の違いは、ピークリングを構成する物質の不均一によるものと考えられる。つまり、マントル上部の上で原始地殻が固まっていたところに巨大衝突が起こり、両者が機械的に混合した際、形成されたピークリングの一部はマントル由来のカンラン石だけになり、一部では原始地殻由来の斜長石と混じり合った状態となった。その後の急斜面で起こったがけ崩れや小さな衝突の掘削により、共存サイトやカンラン石サイトとして表面に現れたと考えられる。

今回の研究により詳細に調査解析された共存サイトは、月のマントル上部物質と原始地殻物質が同時に得られる科学的に非常に重要な特異な場所だ。将来のサンプルリターンミッションにおける候補地点の一つになると期待される。