月まで到達していた地球起源の酸素

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月周回衛星「かぐや」による観測から、太陽活動によって地球の重力圏から流出した酸素が月に到達していることが直接確かめられた。月表土の複雑な組成を理解するうえで画期的な知見である。

【2017年1月31日 大阪大学名古屋大学ISAS

地球周囲の磁場(地球磁場)は、太陽風や宇宙線から私たちを守ってくれる存在だ。地球磁場は太陽と反対方向(夜側)では彗星の尾のように引き延ばされ、吹き流しのような形をした空間である磁気圏を作り、その中央部には熱いプラズマがシート状に存在している領域がある。

太陽、地球磁気圏、月の位置関係の概念図
太陽、地球磁気圏、月の位置関係の概念図(提供:Osaka Univ./NASA)

大阪大学の寺田健太郎さんたちの研究チームは、月周回衛星「かぐや」が取得した月面上空100kmのプラズマデータを解析し、月と「かぐや」がプラズマシートを横切る場合にのみ、高エネルギーの酸素イオンが現れることを発見した。「かぐや」は2007年9月に打ち上げられ2009年6月まで観測を続けた日本の探査衛星だ。

これまでに地球の極域から酸素イオンが宇宙空間へ漏れ出ていることは知られていたが、「地球風」として38万km離れた月面まで酸素イオンが運ばれていることが観測的に明らかになったのは世界初である。

検出された酸素イオンは1-10keV(キロ電子ボルト)という高いエネルギーを持っていた。これほどのエネルギーがあれば、酸素イオンは金属粒子の深さ数十nmまで貫通することができる。長年謎であった、月表土の複雑な酸素同位体組成を理解するうえで非常に重要な知見となる成果である。

酸素は、植物による光合成で生成されたもの、つまり地球の生命活動によって作られたものだ。地球の生命活動が遠く離れた月に直接影響を与えていることを明らかにし、月と地球は力学的だけでなく化学的にも影響を及ぼし合っていることを示した今回の結果は、人々の自然観や科学観にも大きな影響を与えうるだろう。