銀河中心から放り出された超大質量ブラックホール
【2017年3月28日 Hubblesite/ESA Hubble】
米・宇宙望遠鏡科学研究所のMarco Chiabergeさんたちの研究チームがハッブル宇宙望遠鏡で、やまねこ座の方向80億光年彼方に位置するクエーサー3C 186を観測したところ、この天体が銀河の中心から離れて存在していることが明らかになった。クエーサーは活発に活動するブラックホールからの放射が明るく見えているものだが、こうしたブラックホールは銀河の中心にあるはずなので、この天体は非常に奇妙だ。
観測された銀河中の星の明るさ分布などを元にした計算結果によると、このブラックホールは銀河の中心から3万5000光年も離れていることになる。天の川銀河の中心から太陽系までの距離(約2万6000光年)よりも遠い距離だ。また、時速750万kmという猛烈な速度で移動していることも明らかになった。このままのスピードで動き続ければ、ブラックホールは2000万年ほどで銀河から脱出してしまうことになる。
画像を見ると、母銀河には弧の形をしたかすかな構造がある。これは2つの銀河同士の衝突によってできたものとみられ、3C 186と別の銀河が合体した可能性を示唆するものだ。ここから研究者たちは、銀河衝突に伴うブラックホールの合体で生じた重力波によってクエーサーが中心から動かされたのではないかと考えている。
2つの銀河が衝突合体を起こして1つの大きな楕円銀河になるとき、それぞれの銀河の中心にあった超大質量ブラックホールも合体して1つになる。その際、2つのブラックホールがお互いの周りを回りながら近づいていくのにつれて重力波が放出されるが、ブラックホールの質量が異なっていると重力波の方向が偏る。そして、ブラックホールが衝突して1つになり重力波の生成が止まったとき、最も強く重力波が放出された方向と正反対にブラックホールが弾き飛ばされることになる。
すべてのブラックホール合体で、できたブラックホールを反対方向へと動かすような不均衡な重力波が生成されるわけではなく、非対称性は合体前のブラックホールの質量や回転方向といった性質に依存する。今回こうした天体を観測できたのはとてもラッキーだったといえよう。
恒星質量ブラックホールの衝突が実際に起こる証拠は得られているが、超大質量ブラックホール同士の衝突については理解が進んでいない。研究チームの解釈が正しければ、この観測は超大質量ブラックホール同士が実際に合体し得ることを示す強力な証拠となるかもしれない。今後アルマ望遠鏡などによって、風変りな天体の特質がさらに調べられていくだろう。
〈参照〉
- Hubblesite: Gravitational Wave Kicks Monster Black Hole Out Of Galactic CORE
- ESA Hubble: Hubble detects supermassive black hole kicked out of galactic core
- Astronomy & Astrophysics: The puzzling case of the radio-loud QSO 3C 186: a gravitational wave recoiling black hole in a young radio source? 論文
〈関連リンク〉
- Hubble Space Telescope: https://www.spacetelescope.org/
- 星ナビ.com: 2016年5月号 特集「ついに発見!重力波 「直接検出」の意味と意義」
関連記事
- 2024/11/01 天の川銀河中心の大質量ブラックホールの観測データを再解析
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/03/15 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
- 2024/03/08 最も重い巨大ブラックホール連星を発見
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/02/19 減光を続けるクエーサー3C 273
- 2024/02/08 初期宇宙のクエーサーから強烈に噴き出す分子ガス
- 2024/01/24 初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/12 遠方宇宙に多数の活動的な大質量ブラックホールが存在
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/12/04 X線突発天体監視速報衛星「こよう」、打ち上げ成功
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/09/19 クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
- 2023/09/15 巨大ブラックホールに繰り返し削られる星
- 2023/09/08 ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出