シミュレーションで描き出す、小惑星カリクローを取り巻く環

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小惑星「カリクロー」の周囲に存在する環をコンピュータシミュレーションで再現し、環の物質がカリクロー本体に比べて軽いことや、粒子の重力によって環にさざ波のような構造が生じていることが示された。

【2017年5月1日 CfCA

太陽系小天体のうち、軌道が木星と海王星の間に位置するものは「ケンタウルス族」と呼ばれている。その中で最大のものが1997年に発見された小惑星「カリクロー」((10199) Chariklo)だ。2014年、カリクローの周囲に2本の環が発見され、環の光の透過度が土星や天王星の環に匹敵するほど低いことが示された。

氷や岩石の粒子によって形作られていると考えられる環の、光の透過度が低いということは、環に多くの粒子がびっしりと存在していると考えられる。しかし、その詳細構造や形成、進化はよくわかっていない。

京都女子大学(論文発表時は筑波大学)の道越秀吾さんたちはカリクローの環の構造と進化を明らかにするため、国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイ」を用いて、環を構成する粒子の運動を環全体にわたってシミュレーションした。計算では、環の微細な構造を忠実に再現できるように、粒子の大きさを先行研究から推定される数m程度と仮定し、最大で約3億4500万体の粒子が用いられた。

シミュレーションで描き出された、カリクローの二重環
シミュレーションで描き出された、「カリクロー」の二重環(提供:道越秀吾、小久保英一郎、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

まず、環が長時間にわたり安定して維持される条件を調べるために、粒子の密度や半径を変えてシミュレーションを行ったところ、環の個々の粒子密度がカリクロー本体の密度の50%より大きい場合には、粒子の集積が起こり環が分裂することが明らかになった。これは、実際の環の粒子はカリクロー本体よりも低密度であることを意味しており、カリクロー本体と環の粒子は異なる物質組成であることを示唆している。

シミュレーションによる環の進化
シミュレーションによる環の進化。粒子の密度がカリクローの密度の50%の場合。全体として環の構造が維持されていることがわかる(提供:道越秀吾(京都女子大学、筑波大学))

環の個々の粒子密度がカリクロー本体の密度の50%の場合のシミュレーションでは、全体として際立った構造は現れず、環の概形が維持されていることがわかった。しかし、環の細かな部分を見ると、縞模様のような複雑な構造が現れる。これは「自己重力ウェイク構造」と呼ばれており、粒子自身の重力によって環の高密度領域で自発的にできると考えられている縞模様だ。シミュレーションから、ウェイク構造が現れるのは環の個々の粒子密度がカリクロー本体の密度の10%から50%程度の場合であることや、粒子サイズによってウェイク構造の大きさが変わることも示された。

環は、時間が経過するとともに幅が広くなり拡散していくが、自己重力ウェイク構造が存在するとその時間が飛躍的に早まる。これまで環の寿命はおよそ1万年から10万年程度と推定されてきたが、自己重力ウェイク構造を考慮して環の幅が広がる時間を再計算したところ、およそ1年から100年程度という結果が得られた。つまり、今回のシミュレーションで得られた環の寿命は極めて短く、現在の環の存在を説明できないことになる。

カリクローが環を保っていられる理由については2つの可能性があると考えられている。一つはカリクローに未発見の衛星が存在し、衛星の重力によって環の広がりが抑えられるというものだ。もう一つは粒子サイズが数mmととても小さく、ウェイク構造が小さくなって環の寿命が1000万年以上まで延びるというものである。

「今後はシミュレーションで得られた結果を整合的に説明するための環の形成シナリオを構築していくことを計画しています。また、(衛星が環の広がりを抑える効果は今回は検証されていないが)衛星と環の相互作用は土星の環においても重要な現象なので、今後は衛星が環に及ぼす影響について調べていきたいと考えています」(道越さん)。

シミュレーションムービー(提供:道越秀吾、小久保英一郎、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)