観測史上最も遠い超大質量ブラックホールを発見
【2017年12月11日 NASA】
多くの銀河の中心部には質量が太陽の数百万倍から数億倍という非常に重いブラックホールが存在する。このような銀河の中には、中心ブラックホールが周りの物質を大量に吸い込んで強い電磁波やジェットを放つような活動的なものがある。特に、地球から数十億光年以上という非常に遠い距離にあって銀河本体と同じくらい明るい光を放つものはクエーサーと呼ばれており、初期宇宙を理解する上で重要な天体である。
チリ・カーネギー天文台のEduardo Bañadosさんたちの研究チームはNASAの赤外線天文衛星WISEが観測した数億個の赤外線天体のデータと地上の望遠鏡の観測データとを組み合わせ、まだ知られていない遠距離の天体候補を探してきた。有力な候補天体はカーネギー天文台のマゼラン望遠鏡で確認観測され、距離が求められた。
その結果Bañadosさんたちは、うしかい座の方向に、赤方偏移の値が7.54のクエーサーを発見した。遠い天体からの光は地球に届くまでの間に宇宙膨張によって波長が伸び、赤い方にずれる。この波長のずれの度合を表すのが赤方偏移で、値が大きいほど天体までの距離が遠いこと、より昔の宇宙に存在する天体を観測することになる。これまで観測されていた最遠のクエーサーは赤方偏移が7.09であり、今回の天体はこれを超えるクエーサーの最遠記録となる。
さらに、このクエーサーの周囲に存在する水素ガスは電離していない中性水素が大半を占めることがわかった。つまり、最も遠い(最も古い)だけでなく、宇宙が「再電離」した時期よりも古いクエーサーが初めて見つかったことになる。
ビックバンから40万年ほど経つと、プラズマ状態だった陽子と電子の温度が下がって互いに結合し、中性の水素原子が作られる。この時代には光を放つ天体はまだ生まれておらず、中性の水素原子とヘリウム原子からなるガスが宇宙を満たしていた。この時期を宇宙の「暗黒時代」と呼び、数億年ほど続いたと考えられている。やがて重力によってガスが集まって収縮し、最初の恒星や銀河が作られた。これら第一世代の銀河が放出する紫外線によって中性水素は再び完全に電離された。このイベントが宇宙の「再電離」だ。銀河間物質として今も希薄に存在する水素ガスは、この再電離の時代から今日まで、電離したままの状態で存在している。「再電離は宇宙史の中で最後に起こった大転換で、現在の天体物理学研究の最前線の一つです」(Bañadosさん)
今回の発見は超大質量ブラックホールとしても最も遠い(最も古い)ものになり、その質量は太陽の約8億倍と見積もられている。赤方偏移7.54は宇宙が誕生してからわずか6億9000万年しか経っていない時代に対応し、ブラックホールが初期宇宙でこれほど大きくなるためには何か特別な条件があるはずだが、その詳細は謎のままだ。「宇宙年齢のわずか5%しか経っていないような初期宇宙にこれほど重いブラックホールが存在するのは予想外です。これまで考えられてきたブラックホールの形成理論を見直すべきかもしれません」(NASA JPL Daniel Sternさん)。
研究者たちは今回のクエーサーと同じような距離・明るさのクエーサーが20~100個ほど存在するはずだと見積もっている。今後打ち上げが予定されているヨーロッパ宇宙機関の探査機「ユークリッド」やNASAの「WFIRST(広角赤外線サーベイ望遠鏡)」によって、暗黒時代のクエーサーがさらに見つかり、再電離以前の初期宇宙について多くの謎が明らかになることが期待される。
〈参照〉
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