銀河スケールで影響を及ぼすクエーサーからの風
【2017年12月27日 ケック天文台】
銀河中心に位置する超大質量ブラックホールは銀河内の星形成に影響を及ぼしているようだと考えられてきたが、それがどのように起こるのかについては、はっきりとしていない。
米・カリフォルニア大学サンディエゴ校のShelley Wrightさん、Andrey Vaynerさんたちの研究チームは、地球から93億光年彼方に位置するおとめ座の銀河「3C 298」を観測し、銀河中心に存在する活動が活発な超大質量ブラックホールであるクエーサーによって生成されている強力な風を取り巻く環境を調べた。
ケック天文台の赤外撮像分光器「OSIRIS」と高度な補償光学システム、およびアルマ望遠鏡を用いた観測の結果、クエーサーによって生成される強力な風は銀河全体を吹き抜けて星の成長に影響を及ぼしていることが明らかになった。「中心の超大質量ブラックホールがこれほど遠い距離で作られる星にまで影響を及ぼせるとは驚きです」(Wrightさん)。
私たちから近い現在の宇宙では、銀河の質量と銀河中心の超大質量ブラックホールの質量には強い相関があることが知られているが、Wrightさんたちの研究により、遠方宇宙(初期の宇宙)に存在する3C 298と中心のブラックホールの間にはそのような関係がないことが示された。3C 298の質量は、近傍宇宙と同様の関係が成り立つと考えた場合に中心のブラックホールの質量から想定される質量の100分の1しかない。このことは、ブラックホールの質量が銀河よりずっと以前に確立され、活動的なクエーサーのエネルギーが銀河の成長を制御できる可能性を示唆している。
「この銀河の研究で最も楽しかったのは、異なる波長と異なる技術を使って得られた全てのデータを合わせることでした。それぞれ最新のデータから謎を解くためのピースの一部をつなぎ合わせることができましたが、同時に銀河の本質とブラックホールの形成に関する新たな謎も生まれました」(Wrightさん)。
〈参照〉
- W.M.Keck Observatory:Astronomers Shed Light on Formation of Black Holes and Galaxies
- The Astrophysical Journal:Galactic-scale Feedback Observed in the 3C 298 Quasar Host Galaxy 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/11/01 天の川銀河中心の大質量ブラックホールの観測データを再解析
- 2024/09/06 宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- 2024/06/24 「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール
- 2024/04/03 天の川銀河中心のブラックホールの縁に渦巻く磁場構造を発見
- 2024/03/15 初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
- 2024/03/08 最も重い巨大ブラックホール連星を発見
- 2024/03/05 超大質量ブラックホールの周りに隠れていたプラズマガスの2つのリング
- 2024/02/19 減光を続けるクエーサー3C 273
- 2024/02/08 初期宇宙のクエーサーから強烈に噴き出す分子ガス
- 2024/01/24 初撮影から1年後のM87ブラックホールの姿
- 2024/01/16 最遠の渦巻銀河の円盤に伝わる震動を検出
- 2024/01/09 最遠方銀河で理論予測を超える活発な星の誕生
- 2023/12/22 初期宇宙にも存在したクエーサー直前段階の天体「ブルドッグ」
- 2023/12/12 遠方宇宙に多数の活動的な大質量ブラックホールが存在
- 2023/12/08 天の川銀河中心の100億歳の星は別の銀河からやってきたか
- 2023/11/16 酸素は131~133億年前の宇宙で急激に増えた
- 2023/11/09 銀河中心のガスは巨大ブラックホールにほぼ飲み込まれない
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/09/22 銀河団のメンバー銀河を用いた宇宙物質量の新測定法