ダークマターの動きを教える天の川銀河最古の星々
【2018年1月31日 プリンストン大学】
銀河の全質量の9割以上は「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれる、光(電磁波)では見えない未知の物質であることが知られている。ダークマターは質量を持ち、通常の星やガスなどの運動に影響を与えるため、銀河の中でダークマターがどのように分布しているかは推測できるものの、ダークマター粒子がどのくらいの速度で銀河の中を飛び回っているかは長年にわたって謎のままだった。
この謎を解くため、米・プリンストン大学のMariangela Lisantiさんたちの研究チームは、「Eris」と呼ばれるコンピューターシミュレーションのデータに注目した。この大規模数値シミュレーションはNASAのスーパーコンピューター「プレアデス」などを用いて2011年に行われたもので、初期宇宙のダークマターやガスを6000万個以上の粒子で表現し、130億年にわたる銀河形成と進化を精密に再現したものだ。このシミュレーションで、天の川銀河によく似た渦巻銀河を作ることに成功している。
Erisの計算で再現された銀河のデータから、銀河に含まれるダークマターとさまざまな恒星グループの性質を比較してみたところ、ダークマターの速度分布が重元素量の最も少ない恒星グループの速度分布とよく一致することが明らかになった。一般に、重元素は超新星爆発や中性子星の合体で作られて銀河の中で増えていくため、重元素量が少ない星ほど年齢が古いことを示す。
「天の川銀河の非常に古い星々は目に見えないダークマターの速度分布を見積もるための『速度計』、つまりダークマターの動きを示すトレーサーとして使えるということです」(Lisantiさん)。
今のところ、天の川銀河で実際に観測されている古い恒星の数はまだ多くないため、古い星々の速度分布を統計的に研究することはできない。しかし、ヨーロッパ宇宙機関のアストロメトリー衛星「ガイア」によって現在行われているサーベイ観測の成果が最終的にまとまれば、約10億個の恒星データを新たに使えるようになる。こういった観測成果を使うことで、ダークマターの基本的性質について将来手がかりが得られるかもしれない。
現在、いくつもの研究グループによってダークマターを直接検出する実験が行われている。当初はこれらの実験でダークマター粒子を十分な頻度で検出でき、ダークマターの質量や速度を求められると期待されていたが、いまだ検出には成功していない。これらの実験ではダークマター粒子と通常物質との衝突を検出するため、衝突現象を検出できるかどうかはダークマター粒子の速度に強く影響される。今後、古い星々の観測データが大量に得られれば、ダークマター粒子の速度分布モデルを改良でき、これらの直接検出実験に対しても有用な情報を提供できると研究チームでは期待している。
〈参照〉
- Princeton University:Chasing dark matter with the oldest stars in the Milky Way
- Physical Review Letters:Empirical Determination of Dark Matter Velocities Using Metal-Poor Stars 論文
〈関連リンク〉
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