観測史上最強の磁場を持つ太陽黒点
【2018年2月8日 国立天文台「ひので」】
太陽の黒点には強い磁場が存在しており、そのエネルギーは太陽の表面やコロナにおける様々な活動の源となる。黒点周辺ではフレアやプラズマ噴出などの激しい現象がしばしば起こり、放出された高エネルギー粒子が地球に到達すると、オーロラ活動や通信障害、人工衛星への影響など様々な現象が生じる。
通常、磁場の強度は黒点の中央の暗い部分(暗部)の中心で最も大きく、典型的な強さは3000ガウスほどだ。磁場強度は中心部から離れるにつれて小さくなり、黒点周辺のやや明るい部分(半暗部)では2000ガウスを下回る。暗部と半暗部では磁場の姿勢にも違いがあり、暗部の磁場は太陽面に垂直に立っている一方、半暗部では倒れて太陽面に沿った形状をしている。また、その半暗部には暗部から外側に向かう水平流がみられる。
しかし、なかには暗部よりも強い磁場領域を含む黒点も存在し、その領域は複雑な形状の黒点において極性の異なる暗部に挟まれた明るい構造上で見られる。この磁場は大きな強度を持つにもかかわらず太陽面に沿ってほぼ水平という、奇妙な性質も持ち合わせている。こうした磁場がどのように作られ、なぜ暗部以外の場所に形成されるのかはわかっていなかった。
国立天文台の岡本丈典さんと桜井隆さんは、太陽観測衛星「ひので」の可視光線・磁場望遠鏡が2014年2月4日に取得した偏光分光データから、黒点暗部内に存在する明るい構造上で暗部よりもはるかに強い磁場を持つ構造を発見した。磁場強度は観測史上最大の6250ガウスで、これほど大きな磁場強度が明解にデータ上に示されたのは世界初のことだ。
この強磁場も過去の観測例と同様、異なる極性の暗部に挟まれた明るい構造上にあり、かつ磁場の向きは太陽面に沿ったものであることがわかった。水平成分の磁場強度は6190ガウスで、水平磁場としてはこれも観測史上最大である。
さらに、5日間にわたる観測データから、強磁場領域が明るい構造と暗部の境界付近に位置し続けていただけでなく、構造全域にわたって磁場の向きに沿った水平流が存在しており、その流れの先は常に強磁場領域に向いていたことが明らかになった。これらのことから、強磁場領域を含む明るい構造は一方(S極)の暗部に属する半暗部であり、水平流が他方(N極)の暗部境界を強く圧縮したことで、暗部では最大値が4000ガウス程度しかない黒点の磁場を6000ガウス以上に強めていたと考えられる。
「ひので」により黒点を高解像度で数日間にわたって連続的に追跡観測したことにより、強磁場領域の分布と時間発展、周辺環境の変化の詳細がとらえられ、暗部より強い磁場領域形成のメカニズムに対して初の一貫した説明が得られた。強磁場の起源やその振る舞いは、フレアや黒点形成、ガスの噴出、コロナ加熱などにも大きく関わっており、本研究の成果は太陽活動現象の理解をさらに深めるうえで新たな視点をもたらすと期待される。
〈参照〉
- 国立天文台「ひので」:観測史上最強の太陽磁場
- The Astrophysical Journal Letters:Super-strong Magnetic Field in Sunspots 論文
〈関連リンク〉
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