超大質量ブラックホールは銀河進化と無関係か
【2018年2月21日 アルマ望遠鏡】
最近の研究から、ほぼすべての銀河の中心部には太陽の数十万倍から数億倍もの質量を持つ「超大質量ブラックホール」が潜んでいること、その質量は母銀河の質量と強い正の相関を示すことがわかってきており、銀河とその中心に潜む超大質量ブラックホールが互いに影響を及ぼし合いながら成長してきたこと(共進化)が示唆されている。
この共進化の鍵を担う現象の一つとして、超大質量ブラックホールが存在する銀河中心部からの強力な放射により周囲のガスが電離して吹き飛ばされるガス流が注目されている。ガス流が星の材料となる周囲の分子ガスを圧縮して星形成活動を促進したり、逆に分子ガスを拡散させて星形成活動を抑制したりするという考えだ。「巨大ブラックホールの活動性により、星形成の促進と抑制という正反対の効果がどのように生じているのかは、非常に興味深い問題です。研究者たちは共進化の謎に迫るため、銀河中心部からのガス流と星形成活動の関係をつぶさに観察したいと熱望してきました」(愛媛大学宇宙進化研究センター 長尾透さん)。
この謎を調べるため、台湾中央研究院の鳥羽儀樹さん、工学院大学の小麦真也さんたちの研究チームは、塵に覆われた銀河(Dust-obscured galaxy: DOG)に注目した。DOGは可視光線では極めて暗いにもかかわらず赤外線で明るいという特徴があり、さらにその中心には非常に活動的な超大質量ブラックホールが潜んでいると考えられている。
とくに、ろくぶんぎ座の方向に位置する「WISE 1029+0501」(以下WISE1029) と呼ばれるDOGは、超大質量ブラックホール近傍からの強力な光によって周囲のガスが電離されるだけでなく、毎秒約1500kmという高速で銀河から流れ出す電離ガスが確認されている。他の銀河における電離ガスの速度、毎秒数百km以下と比較すると、WISE1029の電離ガス流の激しさがわかる。
この特徴から、WISE1029は超大質量ブラックホール起源の電離ガス流が周囲の分子ガスにどのような影響を及ぼすのかを調べるための最適な天体といえる。しかし、WISE1029は50億光年彼方にあるため、分子ガスが放射する微弱な電波を検出し、分子ガスの運動の様子などの詳細を調べることは、これまで困難だった。
鳥羽さんたちは高感度を持つアルマ望遠鏡でWISE1029を観測し、一酸化炭素分子と低温の塵とが放つ電波の検出を目指した。一酸化炭素は分子ガスの性質を調べるために最適な分子であり、低温の塵は星形成活動を調べる手がかりにもなる。
検出された一酸化炭素分子と低温の塵それぞれが放つ電波を詳しく解析したところ、分子ガスの激しい運動は見つからなかった。その上、星形成活動の促進の様子も抑制の様子も確認されなかった。この結果は、WISE1029に潜む超大質量ブラックホール起源の強力な電離ガス流が周囲に特別な影響を及ぼしていないことを示唆するものだ。
このような状況を生み出す要因として、電離ガスの流出方向が分子ガスの存在領域と大きく異なっている可能性が考えられる。分子ガスは銀河の円盤部に存在すると考えられるため、たとえば電離ガスが円盤とほぼ垂直方向に吹き出していれば、今回の結果を説明することができる。
これまで、超大質量ブラックホール起源の電離ガス流が周囲の分子ガスにも大きな影響を与えているという報告は多数あったが、今回のように激しい電離ガス流と分子ガスがお互いに影響を及ぼし合っていない様子がとらえられたのは非常に珍しい。超大質量ブラックホールからのガス流が周囲の分子ガスや銀河の星形成活動に何らかの影響を与えていることは当然のように考えられていただけに、例外の発見によって超大質量ブラックホールと銀河の共進化の謎がより一層深まったと言える。
「今回見つかったような天体が、宇宙にどれくらい存在するのかを理解することが、共進化の謎に迫る大きな一歩だと考えています。アルマ望遠鏡を用いた観測を継続することで、その答えを得られると期待しています」(鳥羽さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:超巨大ブラックホールは銀河進化と無関係? ~アルマ望遠鏡で見えてきた電離ガス流と分子ガスの意外な関係~
- 工学院大学:小麥真也准教授らの国際研究チームがアルマ望遠鏡を用いて超巨大ブラックホールと銀河の意外な関係性を発見
- The Astrophysical Journal:No sign of strong molecular gas outflow in an infrared-bright dust-obscured galaxy with strong ionized-gas outflow 論文
〈関連リンク〉
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