縮みながら高くなっている木星の大赤斑
【2018年3月19日 NASA】
木星の表面には「大赤斑」と呼ばれる有名な嵐が存在している。最も古い確実な記録は1831年のもので、これより早い時期にも木星の「赤い斑点」が観測された記録が残されているが、それが現在の大赤斑と同じものかどうかはよくわかっていない。
熱心な観測者たちは長年にわたり、大赤斑の大きさや位置の変化を詳しく測定してきた。写真観測以前の時代には、目盛線の入った接眼レンズを天体望遠鏡に取り付け、肉眼での観測が行われてきた。こうした精密な観測記録は1878年まで遡ることができる。
米・NASAゴダード宇宙飛行センターのAmy Simonさんたちの研究チームは、このような歴史上の観測記録と、1979年のボイジャー1号・2号以降のNASAの探査機データを組み合わせることで、時代ごとの大赤斑の大きさや形状、色、移動速度の変化を詳細に調べた。特に、ハッブル宇宙望遠鏡を使って外惑星の大気を毎年継続観測している「OPAL(Outer Planets Atmospheres Legacy)プロジェクト」のデータが詳しい解析に役立った。
大赤斑は南北を流れるジェット気流に挟まれた状態で常に同じ緯度を保ちながら、木星の自転とは逆向きに東から西に向かって木星面上を動いている。歴史的にはこの移動速度はおおむね一定だと考えられてきたが、Simonさんたちの研究によれば、近年の観測データでは大赤斑の移動は速まっていることがわかった。
さらに、大赤斑の長径(経度方向の長さ)が1878年以来縮小し続けていることが確認された。かつては地球3個分の長さに達していたが、現在は地球1個ほどまで縮んでいる。しかし、1920年代には大赤斑の面積が一時的に拡大していたことも今回明らかになった。
大赤斑が縮んでいることで、大赤斑内部の強い風がより強くなっているのではないかとSimonさんたちは予想していた。これはフィギュアスケートでスピンするときに腕を縮めると回転速度が速くなるのと同じ原理だ。
しかし分析の結果、大赤斑は回転速度が速まっているのではなく、垂直方向に引き延ばされているらしいことがわかった。これはろくろで陶器を作る様子に似ている。回転するろくろの上で高さの低い粘土の塊を外側から両手で絞り込むと、背の高い花瓶のような形に変えることができる。粘土の根元を細くするほど器の高さは高くなる。
大赤斑の色については、年とともに濃さを増しており、特に2014年以降は濃いオレンジ色を帯びるようになった。なぜこのような色の変化が起こっているのかはよくわかっていないが、大赤斑が垂直方向に引き延ばされることで、大赤斑の色を生じている化学物質がより高い高度まで運ばれるようになったせいかもしれない。高度が高くなると、化学物質が太陽光の紫外線により強くさらされて濃い色が生じる可能性がある。
大赤斑の縮小によって、木星を象徴するこの巨大な斑点にまつわる謎はさらに深まっているとも言える。この先、大赤斑がもう少し縮んだ後で落ち着くのか、それとも完全に消えてしまうのかは不明のままだ。
「現在の傾向が続けば、今後5年から10年の間は大赤斑のダイナミクス研究にとって非常に面白い時期になるかもしれません。大赤斑の物理的な外観や振る舞いが急速に変化するかもしれませんし、『大』赤斑とは呼べないほど小さくなるかもしれません」(NASAゴダード宇宙飛行センター Rick Cosentinoさん)。
〈参照〉
- NASA:Jupiter's Great Red Spot Getting Taller as it Shrinks
- Astronomical Journal:Historical and Contemporary Trends in the Size, Drift, and Color of Jupiter's Great Red Spot 論文
〈関連リンク〉
- Outer Planet Atmospheres Legacy (OPAL)
- アストロアーツ:
- 【特集】木星とガリレオ衛星(2018年)
- 投稿画像ギャラリー:木星(2018年)
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