星を飲み込んだブラックホールが放射する電波のこだま

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超大質量ブラックホールから放射される電波とX線の観測データから、X線の強さの変動からしばらく遅れて電波もまったく同じ変動をしている例が見つかった。ブラックホールに吸い込まれる物質の量に比例して電波の強さが調節される仕組みが存在するようだ。

【2018年3月26日 マサチューセッツ工科大学

2014年11月11日、超新星などの突発天体を監視している望遠鏡ネットワーク「ASAS-SN(All-Sky Automated Survey for Supernovae)」によって、かみのけ座の方向で閃光が検出され、ASASSN-14liと命名された。様々な波長でこの事象の追観測が行われた結果、この閃光は地球から約3億光年離れた銀河の中心ブラックホールで発生したものであることがわかっている。

こうした超大質量ブラックホールのすぐそばを恒星が通過すると、強い潮汐力の影響で星はばらばらに破壊される。その際に強い光を放出する「潮汐破壊フレア」と呼ばれる現象が見られることがあり、ASASSN-14liの閃光もこの現象だと考えられている。破壊された星はブラックホールを取り巻く「降着円盤」となって、最終的にはブラックホールに吸い込まれる。

超大質量ブラックホールを取り巻く降着円盤の想像図
超大質量ブラックホールを取り巻く降着円盤の想像図。円盤の最も内側の領域からX線が放射され、ブラックホールからは高エネルギー粒子のジェットが放出される(提供:ESO/L. Calçada)

潮汐破壊フレアの光には、X線から電波まで様々な波長の電磁波が含まれる。降着円盤の最も内側に近い超高温の領域からはX線が放射され、円盤の比較的外側からは可視光線や紫外線が放射される。しかし電波については、エネルギーの高い電子が磁場の中を運動するときに「シンクロトロン放射」という過程で放射されるということがわかっているものの、この高エネルギー電子の出所が不明だった。

米・マサチューセッツ工科大学のDheeraj Pashamさんとジョンズ・ホプキンズ大学のSjoert van Velzenさんは、2014年にASASSN-14liからの電波を180日以上にわたって観測したデータを詳しく調べた。

その結果Pashamさんたちは、ASASSN-14liから放射された電波の時間変動の様子が、X線の時間変動のパターンとまったく同じであることを発見した。電波とX線のデータを重ねてみると、13日分だけずらしたときに2つの変動は約90%の一致度に達した。つまり、X線スペクトルのゆらぎと同じものが、13日後に「こだま」のように電波の波長にも現れるということだ。

これまでの説では、ブラックホールによって星が破壊されると衝撃波が発生し、これがブラックホールの周辺に存在するプラズマの電子にエネルギーを与えて電波が放射されるとされてきた。しかしその場合は、電波の時間変動は降着円盤から放射されるX線の変動とは無関係なパターンになるはずだ。

Pashamさんたちは、今回見つかった電波の「こだま」は偶然の一致ではなく、ブラックホールに星の残骸物質が落ち込むタイミングで高エネルギー粒子の強力なジェットが放出されている証拠だと考えている。「このことは、ブラックホールに物質が供給される頻度によってジェットの強さが変わることを示しています。物質が頻繁に供給されるブラックホールからは強いジェットが出ますし、『栄養失調』のブラックホールでは弱いジェットしか出ないか、全く放出されないことになります」(Pashamさん)。

計算によると、ASASSN-14liでX線を放射している領域のサイズは太陽半径の約25倍であるのに対し、電波を放射している領域の大きさは太陽半径の約40万倍に達する。このことから、Pashamさんたちは次のようなモデルを考えている。

星がブラックホールによって潮汐破壊されると、残骸物質は降着円盤の一部となり、これがブラックホールに落ち込むところでX線が放射される。同時にブラックホールから高エネルギー粒子のジェットが放出され、これによって電波も発生する。ただし、最初に電波が発生するジェットの根元近くの領域はきわめて狭く電子の密度が高いため、発生した電波の大部分は別の電子にすぐに吸収されてしまう。その後、ジェットに乗って高エネルギー粒子の塊が13日ほど移動してブラックホールから遠く離れると、粒子の密度が下がって電波が外に飛び出すことができるようになり、観測で検出されるようになる。こうしてX線と電波の強弱変化に13日の時間差が生じているというのだ。

今回の成果は、銀河進化の研究にとっても重要かもしれない。銀河は新しい星を生み出すことで成長するが、星形成が進むためには非常に低い温度が必要だ。銀河の中心ブラックホールが粒子ジェットを放出すると、周囲の環境が加熱されて星形成が一時的に止まる。そのため、ジェットの振る舞いをより正しく理解できれば、銀河の進化をより正確にモデル化することにもつながると期待される。

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