2日で太陽1個分の質量を飲み込む早食いブラックホール
【2018年5月22日 オーストラリア国立大学】
オーストラリア国立大学のChristian Wolfさんを中心とする研究チームは、同大学のサイディング・スプリング天文台にあるSkyMapper望遠鏡を使い、122億年前に相当する遠方の宇宙を近赤外線で観測した。この観測により、みなみのうお座の方向に超大質量ブラックホール「SMSS J215728.21-360215.1」(以降J2157-3602)が見つかった。
超大質量ブラックホールに落ち込む物質はブラックホールの周りに降着円盤と呼ばれるガス円盤を作る。この円盤の中でガス同士はぶつかり合い、摩擦熱で強く光り輝く。このようにして強い光を放射する超大質量ブラックホールは「クエーサー」とも呼ばれる。今回発見されたJ2157-3602は、太陽の約700兆倍もの明るさで輝いている。
ブラックホールが物質を吸い込むペースが速くなるほど、降着円盤から放射される光も強くなる。しかし光には「放射圧」と呼ばれる圧力を及ぼす性質があるため、降着円盤から外に出ていく光が非常に強くなると、ブラックホールが物質を引き寄せる内向きの重力と放射圧が外向きに押す力が釣り合って、物質がそれ以上ブラックホールに落ちていくことができなくなる。この限界の明るさのことを「エディントン光度」と呼ぶ。
Wolfさんたちは、今回発見された超大質量ブラックホールがこのような釣り合いの状態にあると仮定して、観測された明るさをもとにブラックホールが物質を飲み込んで質量が増えていく速さを求めた。その結果、J2157-3602の質量が太陽の約200億倍であること、100万年で1%というペースで質量が増えていることがわかった。これは2日ごとに太陽1個分の質量が飲み込まれている計算だ。普通の超大質量ブラックホールが物質を飲み込む速度は1年に太陽1個分程度なので、J2157-3602はこれより100倍以上も「早食い」だということになる。
「J2157-3602は非常に速く成長していて、銀河1個の明るさの数千倍という光度で輝いています。もしこの『モンスター』が天の川銀河の中心にあったとしたら、満月の10倍の明るさで見えることでしょう。驚くほど明るい点光源の星として見えるはずで、夜空の星のほとんどはこの天体の明るさにかき消されてしまうでしょう」(Wolfさん)。
こうしたブラックホールが放射する光(電磁波)のほとんどは紫外線だが、X線も含まれている。もしこのブラックホールが天の川銀河の中心にあったら、その強力なX線のために、地球上で生命が生きることは不可能だろう。
Wolfさんたちの今回の発見には、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」で得られた天体の固有運動のデータも役立っている。遠方のクエーサーの像は天の川銀河の星と区別が付かないことがあるが、ガイアの観測データによって、今回の天体が移動していないことが確認された。これによって、J2157-3602が非常に遠い距離にあるクエーサーであることが確かめられたのだ。
研究チームでは、将来建設される超大型の地上望遠鏡によって、こうした非常に明るいブラックホールが宇宙論や初期宇宙の研究に役立つことを期待しているという。「この天体が宇宙の初期にどのようにしてこれほど急速にここまで重く成長したのかはわかっていません。今回の天体よりもさらに速く成長しているブラックホールを見つけるため、探索は今も続いています」(Wolfさん)。
(文:中野太郎)
〈参照〉
- The Australian National University:Astronomers find fastest-growing black hole known in space
- PASA:Discovery of the Most Ultra-Luminous QSO Using GAIA, SkyMapper, and WISE 論文
〈関連リンク〉
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