彗星探査機「ディープ・インパクト」、第2のターゲットへ
【2006年11月1日 University of Maryland Newsdesk / NASA News】
NASAは、2008年12月にボーティン彗星(85P/Boethin)へ探査機を接近させて観測を行うことを発表した。と言っても、新たに探査機を打ち上げるわけではない。2005年7月にテンペル彗星(9P/Tempel)への衝突実験を成功させた彗星探査機「ディープ・インパクト」の延長ミッションである。
「ディープ・インパクト計画」は、同名の探査機をテンペル彗星(9P)へ接近させ、350キログラムの子機を衝突させて変化を観察するという野心的なミッションで、NASAとアメリカ・メリーランド大学による共同プロジェクトである。探査機は2005年1月12日(現地時間)に打ち上げられ、2005年7月4日に「ディープ・インパクト」を成功させた。無論、彗星に突入した衝突機はそこで役割を果たした。しかし、衝突機を分離させてから衝突の一部始終を撮影したフライバイ機は、その後何者とも接触することなく宇宙空間を飛び続けている。
一方、ディープ・インパクトがもたらしてくれたテンペル彗星の情報は、これまでのどの彗星よりも詳しいものだが、だからこそ浮かび上がる疑問がある。
「ディープ・インパクトがテンペル彗星について得た結果を、あらゆる彗星についての知識として解釈しようとするにつれて、私たちは彗星と別の彗星の間の違いこそが大事であることに気づきました」とディープ・インパクト計画を率いたメリーランド大学の天文学者Michael A'Hearn氏は語った。
「ディープ・インパクトのフライバイ機と搭載された観測機器はまだ正常に作動しています。テンペル彗星の探査で得た結果が特殊なのか一般的なのか探るために、フライバイ機をボーティン彗星へ向かわせ、2008年12月に接近させることを提案します。」
「ディープ・インパクト延長探査(DIXI)」と名付けられた新ミッションは、NASAの承認を受けて無事に動き出した。2つの撮像装置と赤外線分光装置を使い、ボーティン彗星の表面を撮影する。
「彗星探査でもっとも驚かされることの1つが、撮影された彗星の表面が実に多様なことです」とDIXIの主任研究員となったA'Hearn氏は述べる。「一番きれいに撮影されたテンペル彗星1つをとっても、表面は実に変化に富んでいます。表面の様子が異なるということは、それまでの歴史も異なっていることを意味します。」
DIXIで得られたデータから、原初的な表面とそうでない表面を特定することができるかもしれない。つまり、太陽系が形成された45億年前の環境をそのままとどめている部分と、その後の長い時間に起きた変成作用を反映している部分を区別するということである。それが実現すれば、太陽系がいかに形成されたかを知るための大きなヒントが手に入るのだ。
A'Hearn氏はDIXIが効率的なミッションであることを強調する。「テンペル彗星に関する発見の半分は衝突前のデータから得られているので、DIXIは本家ディープ・インパクト計画の半分の成果をもたらしてくれることでしょう。1割にも満たないコストで。」
ディープ・インパクトに続くもう1つの「復活」ミッション
「彗星表面の変化」と言えば、衝突後にテンペル彗星の表面がどのように変化したのかも研究者にとって重要な関心事だ。ディープ・インパクトはテンペル彗星への衝突実験を行っている間は、遠ざかる一方だった。そこで、テンペル彗星へ再び探査機を接近させるミッションが提案され、DIXIとともに承認された。
こちらのミッションも、すでに最大の目的を果たした探査機によって遂行される。向かうのは、2004年にウィルド彗星(81P/Wild)への接近とサンプル回収を行った彗星探査機スターダストだ。こちらは、2006年1月に彗星のサンプルを詰めたカプセルを地球に届けるという大仕事を果たしたばかりだ。「NExT」と名付けられたミッションの詳細はまだ明らかにされていないが、注目に値する探査となりそうだ。