第3のタイプ発見? ガンマ線バーストの謎は尽きていなかった

【2006年12月22日 Swift MissionESO Science Release

宇宙最大の爆発とされる「ガンマ線バースト(GRB)」。かつては謎に包まれた現象だったが、ここ数年の間に研究がめざましい進歩を遂げた。GRBには2つのタイプがあり、それぞれの正体も判明した―はずだった。しかし、どちらのタイプにも当てはまらないGRBが相次いで2つ見つかり、研究者たちの議論は再び活発になってきた。


(GRB 060505が起きた銀河)

ケック天文台10メートル望遠鏡で撮影された、GRB 060505が起きた後の銀河の可視光画像。超新星に相当する光はとらえられなかった。クリックで拡大(提供:Joshua Bloom & Daniel Perley/UC Berkeley)

(GRB 060614が起きた銀河)

ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された、GRB 060614が起きた銀河の画像。バーストから半月経過した6月27日(上)にはバーストの残光が残っているが、さらに半月後の7月15日(下)に撮影された画像からは、本来現れるはずの超新星が見つからなかった。クリックで拡大(提供:A. Gal-Yam (Caltech))

宇宙のどこかから大量のガンマ線が放出される現象、GRB。10年前には、宇宙のどこで起きているのかさえもわからなかったが、その後貴重な発見が相次ぎ、2006年が始まるころには次のような定説が広く受け入れられていたと言ってよい。

  • GRBは2つのタイプに分けられる。継続時間が数秒から数分の「ロング・バースト」と、2秒にも満たない「ショート・バースト」である。
  • ロング・バーストの正体は「極超新星」。ひじょうに質量の大きな恒星が一生を終えるときの大爆発で、通常の超新星に比べて10倍以上のエネルギーを放出する。
    • ガンマ線が放出される方向の関係で、極超新星爆発が起きてもGRBが観測されないケースがある。しかし、逆はありえない。
    • 巨大質量星が多い、すなわち若くて星形成が活発な銀河で発生する。
  • ショート・バーストの正体は、2つの中性子星または中性子星とブラックホールの合体。
    • こうした天体どうしの衝突には時間がかかる。そのため比較的年老いた銀河で見られることが多い。
  • どちらのタイプも、結果としてブラックホールが誕生する点、数十億光年先という遠い銀河で起きている点では同じ。

とくにショート・バーストはミリ秒単位で終わってしまう現象とあって、研究は難しかった。決着をつけたのは、NASAGRB観測衛星スウィフトで、2005年の5月と7月に相次いでショート・バーストをとらえ、正体について確固たる証拠を得たのだ。

しかし、GRBをめぐる謎は尽きていなかった。天文学者たちに議論を再開させたのはまたもスウィフトで、2006年の5月と6月に見つかった2つのGRB、「GRB 060505」と「GRB 060614」が問題になっている。

GRB 060505は、みなみのうお座の方向10億光年の距離にある銀河で発生し、4秒間続いた。一方、GRB 060614はインディアン座の方向16億光年の距離にある銀河で発生し、102秒間続いた。どちらも継続時間から言えば「ロング・バースト」だ。しかし、「ロング・バースト」に続くはずの超新星が見つかっていない。

GRB 060505の「跡地」は、ケック天文台の10メートル望遠鏡などによって捜索された。GRB 060614に伴う超新星探しには、NASAのハッブル宇宙望遠鏡までもが向けられた。通常の10倍以上のエネルギーが放出される「極超新星」はおろか、人類が見たことのあるもっとも暗い超新星でさえ検出できるほどの観測だったが、輝きは見つからなかった。光がチリなどに遮られた可能性もないという。

「ふつう、新しい天体が見つかることで天文現象に関する理解が進むものです。しかし今回の場合は、何も見つからないことがかえって私たちをわくわくさせてくれましたよ」と、GRB 060505に伴う超新星を探した米バークリー大学の大学院生Daniel Perleyは語っている。

もうひとつ興味深いのは、ハッブル宇宙望遠鏡の観測によればGRB 060614が発生した銀河は小さな銀河で、超新星を起こすような巨大質量星がほとんど存在しないことだ。

GRB 060505やGRB 060614に似たGRBは過去にも起きたとする研究者もいて、この2つがまったくの異端児というわけでもなさそうだ。しかし、ロング・バーストに分類するとすれば、巨大な恒星がその生涯を終えてブラックホールになる過程で超新星爆発を起こさないようなメカニズムを考えなければいけない。ショート・バーストと見なすには、2つの超高密度天体が合体するモデルについて、大幅な計算の見直しが必要になる。さまざまな仮説が提案されているが、「ロング・バースト」でも「ショート・バースト」でもない、第3のGRBが研究者の「定説」に加わる可能性がある。ただし、その正体を知るにはまだまだ発見が足りない。