月の極域で太陽光が当たる日数が判明〜「かぐや」搭載レーザ高度計による観測の成果〜

【2009年1月30日 国立天文台 アストロ・トピックス(443)

月周回衛星「かぐや(SELENE)」が、月の北極や南極の日照時間を調べたところ、常に太陽に照らされている場所は予想に反して存在しないことがわかった。一方、常に影となっている場所は確かに存在していた。そこは低温に保たれ、氷が残っている可能性がある。


アストロ・トピックスより

(北緯(南緯)85度以北(以南)の日照率の図)

北緯(南緯)85度以北(以南)の日照率の図(黒い部分が永久影と判定された部分)。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(北緯(南緯)88度以北(以南)の拡大図像)

北緯(南緯)88度以北(以南)の拡大図(色は日照率を示す(赤・赤い矢印で示された先)80%以上、(緑)70-80%、(水色)60-70%、(青)0%)。クリックで拡大(提供:国立天文台)

日本の月周回衛星「かぐや(SELENE)」で取得されたデータの解析の結果、月面で最大の日照率 (1年のうち太陽光が当たる日数の割合) は北の極域で89パーセント、南の極域で86パーセントであり、永久日照地域がないことがはじめて明らかになりました。

地球の極域で白夜と極夜があるように、月の極域でも半年ごとに白夜と極夜の季節が訪れます。長い長い昼と長い長い夜が、交互に半年間も続くのです。地球と少し事情が違うのは、地球の自転軸が黄道面(太陽の軌道面)から23.4度傾いているのに対し、月の自転軸は1.5度しか傾いていない点です。月の自転軸の傾きは小さいので、高い山の上などには常に日が差す場所 (永久日照地域) があると考えられてきました。このような場所は温度変化が小さく、また太陽光エネルギーを得やすいことから、将来の月面基地の有力な候補地となります。

一方で、深いクレーターの底などには常に日が差さない場所(永久影)があるとも考えられてきました。永久影では低温状態が保たれているため、古い氷(H2O)が存在している可能性が指摘されています。これらの氷は、太陽系の歴史を知る上で重要な手がかりになるとともに、月面での水資源として利用できる可能性があります。

国立天文台RISE月探査プロジェクト(注)の研究者は、かぐやに搭載されているレーザ高度計で取得された地形データを用いて、月の極域(北緯85度以北と南緯85度以南)に、太陽光が1年のうちに何日当たるかを調べてみました。

その結果、解析に用いた空間分解能(分解し得る最小の間隔:北緯85度でおよそ緯度、経度方向それぞれ500mの領域に相当)では永久日照地域は存在せず、最大の日照率は北極域では1年365日のうち324日分に相当する89パーセント、南では同じく314日分に相当する86パーセントであることがわかりました。一方、永久影については予測通り、確かに存在することもわかりました。

これまでにも写真や地上レーダ観測から月の極域の地形データはありましたが、その地形図は極域全体を網羅したものではなく、かつ、精度が悪いものでした。今回の成果は、かぐやのレーザ高度計によって、世界で初めて月の両極域での詳細な3次元地形データが得られたことでもたらされたものと言えるでしょう。

本研究は、2008年12月30日発行の米国地球物理学専門誌に掲載されました。

注:RISEは、Research in Selenodesy の略称。Selenodesy は測月学のこと。地球上の測地学 (地球の形や重力、その変動を研究する学問) を月に応用したもの。国立天文台 RISE 月探査プロジェクトは、かぐやプロジェクトの一部を担い、月の重力場や地形を詳細に調査し、月の起源と進化の解明を目指す。

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