カシオペヤ座HTの25年ぶりの大増光
【2010年11月16日 VSOLJニュース(252)】
11月2日(世界時、以下同様)、アメリカのTimothy Parsonsさんが、矮新星の一つ、カシオペヤ座HTが25年ぶりに12.9等に増光していることを発見した。増光の様子を観望するだけなら口径15cmの望遠鏡でも可能だ。矮新星を目にしたことのない方も含め、ぜひこの機会にカシオペヤ座HTへ望遠鏡を向けてみてはいかががだろうか。
VSOLJニュースより
「新星」「超新星」という名前ならよく耳にしていても、「矮新星」となるとちょっとそれがどんなものか見当がつかない、という方も多いのではないでしょうか。これは近接連星系の円盤上にガスが降り積もることで、円盤の温度が急上昇することで明るくなる、という変動を示す天体です。一般的に矮新星はこのようなアウトバーストを間欠的に繰り返すことが知られていますが、その間隔は星によってもまちまちで、長いものでは数年に1度、数十年に1度ということもあります。
カシオペヤ座HTは、このような矮新星の一つで、とくに「SU UMa(おおぐま座SU)型矮新星」とよばれる天体です。これは矮新星の中でも軌道周期の短い系で、すぐに暗くなるノーマルアウトバーストと、1〜2週間以上極大光度を保つスーパーアウトバーストの2種類のアウトバーストを示す系を指します。スーパーアウトバーストの間にノーマルアウトバーストが数回見られてまたスーパーアウトバーストが起こる、というのが一般的です。
また、この天体は、白色矮星とその周りの円盤を赤色矮星が隠す食を示すことが知られています。食を起こす矮新星では、その食の形状から円盤の様子を逆算することで円盤の状態を調べることができることができ、円盤における物理の研究の上でひじょうに興味をもたれていました。そのふるまいを知るため、15年ほど前にはハッブル宇宙望遠鏡で観測が行われたこともあったほどです。
しかし肝心の増光時のふるまいについては、カシオペヤ座HTは矮新星の中では増光を起こす間隔がかなり長くなかなか明らかにされませんでした。1985年に示したのを最後に、数年に1度のノーマルアウトバーストを示すもののスーパーアウトバーストは1度も見られていなかったのです。
2010年11月2.4306日、アメリカのTimothy Parsonsさんがこのカシオペヤ座HTが12.9等に増光しているのを発見しました、このニュースはただちに海外の激変星の動向を伝えるメーリングリストCVNetによって伝えられ(cvnet-outburst 3892)、スロバキアのPavol A. Dubovskyさん、京都市の花山天文台の前原裕之さんらによって確認されました。花山天文台の前原裕之さんによってなされた高速測光観測で、増光しつつあるこの天体が1等近くに及ぶ食を示す様子がとらえられました。
天体はその後12等の極大に達し、ゆっくりと減光しています。食に加えて、上記のスーパーハンプも途中から発達し、こちらも興味深い現象として観測がなされています。通常スーパーハンプは通常0.1〜0.2等と小さな振幅なのですが、この天体では0.5等近くの大きな変動がみられています。長崎県の前田豊さんは、このスーパーハンプと食を、眼視観測によって変動を検出して報告しています。スーパーハンプがこのように眼視でとらえられるほどはっきりしていることはきわめて珍しいことです。
これまで矮新星をご覧になったことのない方も、25年ぶりの増光を目の当たりにできるこの機会に一度矮新星をご覧になってはいかがでしょうか。増光の様子を目にするだけなら口径15cmの望遠鏡から可能です。
これまでの観測は以下のとおりです(観測記録参照)。
またVSNETでは、この星のCCDによる連続測光観測を募集しております。20cm前後の望遠鏡をお持ちで5〜30秒露出での数時間の連続観測が可能な方であれば観測可能です。フィルターはとくに必要ありません(光を多く使うため、取り外せない限りフィルターを外して使うことをお勧めします)。
積分時間は天体と、光度測定のための比較星両方が飽和しない程度の時間をかけます。20〜25cmくらいの望遠鏡の場合、10秒ないし20秒が適当ですが、条件によって大きく変わるので実地で何枚か撮ってカウント値を調べて決めるのがよいでしょう。
観測は、少なくとも軌道周期1周期分(この天体では106分)行います。それより長くできる場合可能な限り撮ることをお勧めします。なお、位置は以下のとおりです。
赤経 01時10分12.9秒 赤緯 +60度04分35 秒(2000.0分点) カシオペヤ座HTの周辺星図