超新星残骸から次世代の芽 「あかり」と「すざく」が塵生成の兆候を観測
【2011年1月19日 ISAS】
赤外線天文衛星「あかり」とX線天文衛星「すざく」による超新星残骸の観測で、Ia型超新星爆発で放出された元素から塵が作られる可能性が世界で初めて示された。惑星の原料ともなる塵に超新星爆発がどう影響するのか、惑星や生命の起源を探るうえでも注目される。
カシオペヤ座にある「ティコの超新星残骸(SN 1572)」は、デンマークの天文学者ティコ・ブラーエが1572年に目撃した超新星爆発の残骸で、空間的に分解して観測することができ、かつ爆発から現在までの歴史を追うことができるため、Ia型(核融合暴走型)超新星(*1)の残骸として貴重なサンプルとなっている。
星の内部で起こる核融合反応で作られた重い元素は、星の最期とともに飛び散り、次世代の星やその周りの惑星などの材料となる。このプロセスを観測研究で明らかにすることは、惑星や生命の起源を探ることにつながる。とくに生命の素となる重い元素の供給を担うIa型超新星残骸での塵の生成は、ひじょうに興味深く重要な研究対象とされている。
1枚目の画像は、X線・赤外線・電波で観測した「ティコの超新星残骸」のデータを合成し擬似カラーで着色したものだ。波長ごとに色分けされており、それぞれ見えるものが異なっている。
- 青:X線で観測した約1000万度の高温プラズマの分布。秒速3,000kmの早さで膨張している
- 緑:電波で観測した一酸化炭素分子の分布。水素分子を主成分とする「分子雲」の存在を示す。膨張する超新星残骸は、画像の左上方向にひろがるこの分子雲とぶつかる
- 赤:膨張する高温プラズマが分子雲にぶつかって加熱された比較的暖かい(-170℃)塵の赤外線放射(波長24μm)
「あかり」による波長90μm(マイクロメートル)や140μmの赤外線観測で、分子雲のあるところには周りの空間にもともと存在している冷たい(-260℃)塵も大量に検出されている。これは、膨張する超新星残骸が濃い星間物質を加熱し、明るく光らせていると考えられる。ただし、高温プラズマに取りこまれた塵は、150年程度で壊されてしまう。
一方、高温プラズマ球の右上の部分では、分子ガス(緑色)がほとんどないにもかかわらず、塵の赤外線が明るく光っている。「すざく」によるX線観測で、超新星から右上の方向に多く物質が放出されたことがわかっている。つまりこのデータは、超新星から放出された鉄などの元素が凝縮して、塵が新たに作られた可能性を示している。見積もりによれば、爆発した星の質量のうち1万分の1の量の塵が新しく生成されたということだ。Ia型超新星で塵の生成の兆候が見られたのは世界で初めてである。
*1 白色矮星が起こす暴走的核融合で発生するタイプの超新星で、鉄などの元素が多く生成される。対する「重力崩壊型(II型)」は、大質量星が重力崩壊して起こり、主に酸素など比較的軽い元素が生成される。