ガンマ線バースト研究の第一人者、河合誠之さんが林忠四郎賞受賞
【2011年6月17日 日本天文学会】
日本天文学会の2010年度林忠四郎賞が、東京工業大学の河合誠之教授に授与された。ガンマ線バーストの系統的研究への貢献が評価されたものだ。
宇宙最大のエネルギー規模をもつ爆発現象として知られているガンマ線バースト(GRB)は、1970年代初頭にその存在が明らかになった。位置決定の難しいガンマ線領域での短時間(数秒〜数分)の現象であるため、20年以上にわたりその発生源の距離・起源・発生機構が謎のままだった。現在では、大質量星の中心核が崩壊してブラックホールができる際に放たれるほぼ光速のジェットの軸が、ちょうど地球方向を向いた時に観測されるものであることがわかっている。
東京工業大学の河合誠之(かわいのぶゆき)教授は、GRBの観測を通じてその起源の解明に大きく貢献するとともに、GRBを用いた高赤方偏移宇宙(注1)の解明への道を拓き、その功績により日本天文学会から2010年度林忠四郎賞が授与された。この賞は、広い意味での天文学の分野において独創的でかつ分野に寄与するところの大きい研究業績に対して贈られるものだ。
河合さんの代表的な業績は以下の通り。
- GRB発生後1分以内の正確な位置情報取得を初めて実現した「HETE-2」衛星の国際共同開発に携わる。「HETE-2」は数多くのGRB残光を観測し、GRBの発生要因や、GRB観測を利用した遠方宇宙の解明に大きく貢献した。また2003年には、GRBが大質量星の重力崩壊で生じるという初めての直接的証拠を得ることに成功した(「GRB 030329が見せた数々の新事実」)。
- 2005年9月、「すばる望遠鏡」を用いて世界で初めて赤方偏移6を超える(距離にして約128億光年)GRBの分光観測に成功した(「すばる望遠鏡、宇宙最遠の巨大爆発をとらえる」)。これにより、赤方偏移6.3の段階で「宇宙再電離」(注2)がほぼ完了していたことが明らかになった。GRBが最遠方宇宙の有力な観測手段であることを示したことで、銀河形成や初代天体の研究分野に大きな刺激を与えるきっかけともなった。
- 「ガンマ線バーストで読み解く太古の宇宙」をテーマとして、理論研究者やX線・ガンマ線・赤外線などの観測研究者など様々な背景を持つ研究者を組織し、科学衛星や地上望遠鏡の開発・観測・理論研究を強力に推進している。
注1:「高赤方偏移宇宙」 遠方宇宙のこと。初期宇宙の姿でもある。近傍銀河以遠のレベルでは、宇宙膨張により遠方ほど観測者から高速で遠ざかるので、観測される光の波長がより長く伸びる。これを「赤方偏移(せきほうへんい)」と呼び、この度合いが高いほど遠方の天体(=過去の天体の姿)であることを示す。
注2:「宇宙再電離」 宇宙のはじまりの数億年後に起こったと考えられる現象。誕生直後プラズマ状態だった宇宙は約40万年後、原子核と電子が結合して原子が誕生しいったん中性化したが、約5億年後、中性水素がふたたび水素イオンと電子に分かれる「再電離」が起こったとされる。