すばる望遠鏡、ダークガンマ線バーストの残光とバーストが発生した銀河を発見
【2010年7月21日 すばる望遠鏡】
すばる望遠鏡が、2008年3月25日に発生したダークガンマ線バースト(ダークGRB)と呼ばれるタイプのガンマ線バーストの残光と、そのバーストが発生した銀河を近赤外線の波長でとらえた。その結果、このダークGRBが発生した銀河は、これまでにガンマ線バーストが見られた銀河のうちで、もっとも質量が重いことが明らかになった。
GRB(※)は、宇宙でもっとも激しい爆発現象で、数秒から数十秒にわたって突発的にガンマ線が激しく放出される現象だ。GRBは遠くの銀河で起こることがわかっていて、そのような銀河は「GRB母銀河」と呼ばれる。
近年では、GRBは、超新星爆発に伴うひじょうに高速なジェットがちょうど地球の方向に向かって吹き出している場合に観測される現象と考えられるようになってきた。
重い単独の星が超新星爆発を起こす際、ひじょうに高速なジェットが形成されるには、ヘリウムよりも重い元素の量(重元素量)が極めて少ない環境でなければならないことが計算から示されている。また、観測的にも、GRB母銀河はひじょうに軽い銀河であることがわかっており、一般的に銀河の質量が小さいほどその銀河の重元素量も少ないという関係があるため、GRBは重元素量の少ない環境で発生していると考えられている。
そのほか、GRBの発生した場所における重元素量は分光観測によって直接測定されていて、実際に重元素量が少ないことが確かめられているものもある。このようなことから、GRBは「重元素量の少ない単独星の超新星爆発に伴うもの」であるという考え方が理論的にも観測的にも裏付けられつつある(以下この考え方を「単独星シナリオ」と表記)。
しかし、すべてのGRBの起源が明らかになったわけでない。とくに、GRBの約半分を占める「ダークGRB」と呼ばれるものについては、ほとんど研究が進んでいない。この種のGRBは、可視光での「残光」が極端に暗かったり、まったく検出できなかったりするのである。一方、それ以外のGRBは、発生した場所において数時間から数日にわたってX線や可視光、近赤外線で明るく輝く残光の観測が可能だ。その観測から、どこからやってきたのか、またどんな環境で発生したのかに関する情報を得ることができる。
京都大学、東京工業大学、国立天文台などの研究者からなるチームは、2008年3月25日にこと座の方向に発生したダークGRBの発生領域を、すばる望遠鏡に搭載されている多天体近赤外撮像分光装置(MOIRCS:モアックス)を使って近赤外線で撮像した。
その結果、このGRBの近赤外線残光と母銀河を世界で唯一発見することに成功した。検出された近赤外線残光の明るさはGRBの残光モデルの予想よりはるかに暗く、ダークGRB周辺に多くのちりが存在していて残光が強い吸収を受けていることが示された。つまり、このGRBは重元素量の多い環境で引き起こされたということだ。
さらに同研究チームは、バースト発生から約1年後に、すばる望遠鏡の主焦点カメラによる可視光観測を行って、母銀河の検出に成功した。その結果、母銀河は天の川銀河に匹敵する質量(星の総質量、以下「星質量」)を持っており、GRB母銀河としてはこれまでに発見された中でもっとも星質量が大きいことがわかった。
銀河は、星質量が大きいとその重元素量も多いという関係がある。この関係と今回の星質量を使って予想される重元素量を計算すると、これまでに確認されているGRB母銀河の重元素量の中でも飛び抜けて多いことがわかった。
これまで広く信じられてきた単独星シナリオでは、このような大きな重元素量を説明することは困難だ。重元素量が多い環境でもGRBが発生する理論モデルとして連星シナリオが提案されている。このダークGRBは、連星を起源とする爆発だったということが示唆される。
今回の研究成果は、これまで研究があまり進んでいなかったダークGRBが、別のメカニズムで爆発している可能性を示した。GRBの種類やその発生メカニズムを知るうえでの重要な手がかりとなるだろう。
また、今から約4億3500万年前(オルドビス紀)に起こった生物の大絶滅は、天の川銀河内で起こったGRBが原因であるとする説がある。天の川銀河での重元素量が多いため、従来この説に対しては否定的な見方が一般的であったが、今回の発見はその議論に一石を投じることになるかもしれない。
※GRB:ロングGRBとよばれるバーストの期間が比較的長いものと、ショートGRBとよばれるバーストの期間が短いものの2種類あることが知られている。この2種類は性質がひじょうに異なるため、爆発の起源もまったく別のものとされている。研究チームが観測したGRBはロングGRBに属するもので、ここでいうGRBはロングGRBのことを指す。なお、ショートGRBの起源についてもまだ明らかになっていない。