地球軌道のトロヤ群小惑星を初めて発見

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【2011年7月29日 NASA

全天の赤外線サーベイを目的としたNASAの赤外線天文衛星「WISE」が地球軌道のトロヤ群小惑星を発見した。地球のトロヤ群は観測が非常に難しくこれまで見つかっていなかったが、地球近傍の天体捜索に的を絞ったデータの利用が今回の発見につながった。


地球と小惑星2010 TK7

地球と小惑星2010 TK7。青い点線が地球の軌道で、緑の線が2010 TK7の軌道。クリックで拡大(提供:Paul Wiegert, University of Western Ontario, Canada)

2010 TK7の実写画像

2010 TK7の実写画像。緑の丸で囲まれている小さな点が2010 TK7。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/UCLA)

トロヤ群小惑星とは太陽の周りを回るある惑星の公転軌道上に位置し、太陽・惑星・小惑星が正三角形をなすような場所(L4、L5)にある小惑星群のことを指す(注1注2)。火星や木星、海王星にはこのトロヤ群小惑星が既に見つかっていたが、地球にもこのような小惑星が存在しているかどうかは今まで確認できていなかった。トロヤ群小惑星はそもそも非常に小さく、そのうえ地球から見た場合は太陽に近い方向に見えてしまうため、地球のトロヤ群小惑星を観測することは非常に難しかったのだ。

今回用いられたのは赤外線で全天のサーベイ観測を行っている赤外線天文衛星「WISE」による観測データで、その中でも地球近傍天体(NEOs)に対象を絞った「NEOWISE」の2010年1月から2011年2月までのデータだ。

「NEOWISE」は火星と木星の間にあるメインベルトに15万5000個もの小惑星を観測し、また132個ものNEOsを新たに発見している。データの解析から2つのトロヤ群小惑星の候補が発見され、そのうち2010 TK7と呼ばれるものはハワイ島マウナケア山にある「カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡」によってフォローアップ観測が行われ、存在が確かめられた。

小惑星2010 TK7は直径が300mほどで、地球からの距離は約8000万km、少なくとも100年間は2400万km以内には近づかないことがわかった。また、2010 TK7の軌道は地球の公転軌道面を南北に行ったり来たりするような非常に複雑な軌道を取っていることがわかった(画像1枚目)。

地球に近い軌道を取る小惑星は多く見つかっており、これらは将来の有人探査やロボットでの利用を考える上で有力な候補であるが、残念ながらこの2010 TK7は距離が遠すぎるため、その候補からは外れてしまうようだ。

今回の発見により、「NEOWISE」のプロジェクトは未だ発見されていない地球近傍の天体を発見できる多大なる可能性を秘めていると言えそうだ。

注1:「L4、L5」 このような3天体からなる重力の安定点をラグランジュ点と呼び、L1からL5まで5点あることが知られている。トロヤ群のうち、惑星よりも先行して公転している点がL4で前方トロヤ群と呼び、惑星の後ろからついてくる点がL5で後方トロヤ群と呼ぶ。

注2:太陽・惑星・小惑星ではなく、土星・土星の大衛星・土星の小衛星がトロヤ群を成しているものもあり、トロヤ衛星と呼ばれている。