ちょうこくしつ座で新矮新星が増光
【2011年10月26日 VSOLJニュース(281)】
南天の星座ちょうこくしつ座の方向にある、これまで変光星として知られていた星が、矮新星として増光しているのが発見された。すでに変光星として知られていた星が矮新星として観測されるのは非常に珍しいケースと言える。
VSOLJニュース(281)より(10月23日)
秋の夜空といえばカシオペヤ座やペルセウス座をはじめとした北の空の華やかさが目に付く一方で、南の空は明るい星もほとんどなく目立たない印象があります。
どこが何座か、改めてきかれて戸惑ってしまったことのある方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、この方角は銀河系の極の方向。星がたくさんある銀河系の円盤面から離れた方向にあたるのです。われわれの銀河系の南極はこの目立たないエリアにある星座の一つ、ちょうこくしつ座の方向にあります。
そんな影の薄い感のあるちょうこくしつ座ですが、このたび新たな矮新星が発見されました。この天体の興味を引く点は、非常に明るいこと、そして実はすでに変光星として知られていた天体であるということです。
この天体はHamburg/ESOサーベイというサーベイによって発見された16等台半ばの天体です。のちにROSAT衛星によってX線の検出がなされたことや、測光観測やスペクトル観測によって判明した特徴などから、激変星の一つであろうと考えられるようになりました。
極小時における光度変化の観測から軌道周期が78.2分と見積もられたため、もしこの星が矮新星増光を起こせば「おおぐま座SU型」矮新星、あるいはそのサブグループである「や座WZ型」矮新星となるであろう、と考えられていました。その後、ちょうこくしつ座BWという変光星としての名前が付けられましたが、その後特に目立った増光は報告されていませんでした。
2011年10月21.3146日にハワイのM. Linnoltさんによって、この天体が9.6等まで増光していることがAAVSO-DISCUSSIONメーリングリストに報告されました。極小時の光度が16等台半ばであることを考えると増光範囲は7等程度と、や座WZ型が疑われる値です。
その後P. Starrさんによって行われた連続測光観測のデータによると、アーリースーパーハンプ様の弱いダブルピーク状の変動が見られます。アーリースーパーハンプはや座WZ型矮新星の初期に特徴的な変動であることから、やはりや座WZ型矮新星が疑われます。9.6等という極大光度(今後さらに明るくなる可能性もあります)は矮新星の中でももっとも明るい部類に属するものです。
この天体の詳しい位置は、以下のとおりです。
赤経 23時53分00.7秒 赤緯 -38度51分45 秒(2000.0年分点) ちょうこくしつ座の矮新星の周辺星図
この位置からもわかるとおり南に非常に低く、南中時でも高度20度程度にしかなりません。冒頭でも述べたように、周りにあまり明るい星のないエリアでもあることから観測はやや難しいかもしれません。ですが、南中時刻が宵過ぎと季節的には非常に観測しやすいことと光度が明るいことから、導入できれば小望遠鏡でもその姿をとらえることは可能かと思います。
このように、極小がすでに変光星として同定されている天体から矮新星となるケースというのは非常に珍しいものです。増光を信じて日々のモニター観測を続けた観測者の努力が実った結果といえるでしょう。
ちょうこくしつ座の矮新星の位置
この天体を天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータ」で表示して位置を確認できます。ご利用の方は、ステラナビゲータを起動後、「データ更新」を行ってください。
また、新しいデータや番組を入手できる「コンテンツ・ライブラリ」では、新星をわかりやすく×印で表示するための「新星(マークで表示)」ファイルも公開しています。あわせてお楽しみください。