自身の質量から発見された、100億光年かなたの暗い矮小銀河
【2012年1月20日 ケック望遠鏡】
およそ100億光年かなたの矮小銀河が、自身の質量による重力レンズ効果を手がかりとして発見された。この銀河は非常に暗く、ほぼダークマターでできていると考えられている。天の川銀河の周囲に多数あるとされる矮小銀河の存在を明かすきっかけになるかもしれない。
はるかかなたの天体からの光が手前にある大質量の天体の近くを通過するとき、重力によって光が曲げられ、本来よりも明るくなって私たちの目に届くことがある。この「重力レンズ効果」で天体が見える場合、その像はアインシュタイン・リングと呼ばれるリング状やアーク(弧)状に見える(画像)。
Simona Vegetti氏(米マサチューセッツ工科大学)らは、98億光年先の大質量楕円銀河「JVAS B1938 + 666」の重力レンズ効果を調べていた際、その周囲にアインシュタイン・リングを発見した。ハワイ島マウナ・ケア山頂の「ケック2望遠鏡」でさらに観測・分析し、重力レンズ効果のうちこの銀河の質量によるものを差し引いたところ、まだ別の質量による効果が残っていた。この結果から、JVAS B1938 + 666の伴銀河である小さな銀河があるらしいことがわかったのである。
この銀河の質量は太陽のおよそ2億倍と見積もられている。あまりに遠方にあるため現在の技術では光学的に直接観測することはできないが、「こうした天体の存在を知るすべがあり、実際にこうして検出されたということが意義深い」(独ハイデルベルク大学のRobert Schmidt氏)という。
天の川銀河のような大型の銀河は何十億年もかけて小さな銀河が多数集まってできたと考えられており、大型の銀河の周囲には今でも矮小銀河がたくさんあるはずだ。しかし、コンピュターシミュレーションによれば天の川銀河には1万個の伴銀河があるはずだが、実際には30個しか見つかっていない。
そのような矮小銀河が見つけづらいのは、ほとんど星を持たず大部分がダークマターでできているためかもしれない。ダークマターとは、質量を持っているが直接観測することはできない謎の物質のことで、今回のように重力的な影響から存在や量が推測される。
小質量で暗い銀河の存在は、宇宙が低温のダークマターでできていると考えれば予測と合致する。研究チームでは、今後同様の銀河がさらに発見され、この結論がますます確実なものになることを期待している。