ブラックホールに引き裂かれる星の姿

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【2012年5月11日 NASA

超大質量ブラックホールに近づき引き裂かれた恒星の姿が、NASAの紫外線天文衛星などでとらえられた。ブラックホール周辺の激しい環境についての理解を深めてくれる。


ブラックホールによって引き裂かれる星

赤色巨星がブラックホールによって引き裂かれていく様子。観測結果に基づいてシミュレーションで再現された。動画をリンク先で見ることができる。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/JHU/UCSC)

紫外線放射の変化

GALEXとPan-STARRS1がとらえた紫外線放射の変化。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/JHU/STScI/Harvard-Smithsonian CfA)

NASAの紫外線天文衛星「GALEX」とハワイのPan-STARRS1望遠鏡などの観測で、27億光年かなたの銀河中心に存在する超大質量ブラックホールが恒星を引き裂く瞬間とその残骸がとらえられた。こうした現象は以前からも観測されていたが、今回はじめてその天体の正体も明らかになった。

天の川銀河の中心にあるブラックホールの周囲でも重力にとらえられて星が公転していると予想されているが、今回観測されたような接近は10万年に1回という非常に稀なものだ。

Suvi Gezari氏らの研究チームはこの瞬間をとらえるために、全天にわたり数十万個の銀河を地上と宇宙からくまなく監視した。2010年6月、とある天体からの紫外線放射が増加していくのが観測された。この光は1か月後にはピークに達し、その後1年かけてゆっくり暗くなっていった。超新星の場合も似たような変化が見られるが、通常の超新星より増光がゆるやかで、ピークに達するまでにほぼ1か月半近くもかかった。

「この現象が長くなるほど、我々は興奮を隠せませんでした。これが超新星なら非常に珍しい超新星ということだし、そうでなければ、とても稀な現象ということなのですから。それが今回観測した、恒星がブラックホールに引き裂かれれる瞬間でした」(Gezari氏)。

様々な観測から天体の情報がわかった。明るさの変化から推定されたブラックホールの質量は、天の川銀河の中心ブラックホールにも匹敵する、太陽の数百万倍におよぶものだ。

またその光から、引き裂かれた恒星はヘリウムが多く、水素がほとんど残っていなかったことがわかった。すでに晩期を迎えた赤色巨星で、水素を使い果たしてヘリウム核だけが残っていたと見られる。大きく膨張した星は、細長い楕円軌道でブラックホールを回り、接近した際に重力で大気を引き剥がされた後も公転を続け、最後には消滅したのだろう。