100億光年かなたに超ヘビー級銀河団の重力レンズ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2012年6月29日 HubbleSite

重い銀河団などの重力によってさらに向こう側の天体が変形して見える「重力レンズ現象」が、100億光年かなたのという遠方の銀河団によって引き起こされている様子がとらえられた。


ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた100億光年かなたの銀河団と、その重力レンズによりアーク状に見えるさらに遠くの銀河

ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた100億光年かなたの銀河団と、その重力レンズによりアーク状に見えるさらに遠くの銀河。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and A. Gonzalez (University of Florida, Gainesville), A. Stanford (University of California, Davis and Lawrence Livermore National Laboratory), and M. Brodwin (University of Missouri-Kansas City and Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics))

画像は、うしかい座の方向100億光年かなたの銀河団をハッブル宇宙望遠鏡がとらえたものだ。拡大図の青っぽいアーク(弧)は、銀河団よりさらに遠くにある奥の銀河の像が、銀河団の重力で歪んで見えているものと考えられる。数百数千の銀河が集まった銀河団の重力による「重力レンズ効果」と呼ばれるこうした現象は、非常に遠くの銀河を拡大し、見えやすくする。

この画像を見たAnthony Gonzalezさん(米フロリダ大学)は、はじめ目を疑った。ここまで遠くにある銀河団による重力レンズ現象が見られるとは思ってもみなかったからだ。

100億光年先の銀河団による重力レンズということは、レンズ効果を受ける銀河はさらに遠くにあることになる。そのような銀河がうまく存在する確率はかなり低い。また、昔の銀河団ほど質量は軽いので、レンズ効果を起こせるほどの質量を持っていることも難しい。

重力レンズとなっている銀河団「IDCS J1426.5+3508」までの距離は、ハッブル宇宙望遠鏡のWFC3カメラによる赤外線像の測定から確認されている。100億光年は、銀河団としては最も遠い部類だ。他の観測と組み合わせて、平均的な銀河団5〜10倍にあたる太陽500兆個分もの質量を持つことも確認されている。今回の発見は、初期の宇宙でこれほど重い銀河団がどのように生み出されたかという研究の手がかりになるかもしれない。

アークとして見えている天体の正体を調べると、星を活発に生み出していた100億〜130億年前の銀河だというが、研究チームでは、この距離をハッブル宇宙望遠鏡でさらに精密に測定する予定だ。

「観測を行ったほんの小さな範囲で、こんなに昔のこんなに重い銀河団が見つかるなんて奇跡みたいなものです。かみのけ座銀河団や最近見つかったほうおう座のエル・ゴルドのような巨大質量銀河団の祖先と考えられます」(同研究チームのMark Brodwinさん)。

このアークが見えるしくみについては、以下の2つが可能性として考えられる。1つは、昔の銀河団は今よりも中心部の密度がかなり高く、強いレンズ効果を起こしやすかったということ。ただし統計的データからすると、この場合でも今回のような巨大なアークが見えるには不十分だという。

もうひとつは、ビッグバン直後に生成された物質の微小な揺らぎが、標準の宇宙理論のシミュレーションで推測されているものとは違っており、推測モデルよりも重い銀河団が作られた、というものだ。

「1つの観測例からは、まだなんとも言えません。80億〜100億年前の巨大質量銀河団をたくさん観測して、他に重力レンズ効果が見られる天体かどれだけあるかをまず調べなくては」(Gonzalezさん)。

〈参照〉

〈関連リンク〉

〈関連ニュース〉