亜鉛が決め手 月の「巨大衝突説」に新証拠
【2012年10月25日 ワシントン大学セントルイス】
月の起源として有力な「巨大衝突説」を決定的に裏付ける証拠が、アメリカの研究チームによって発見された。決め手となったのは、月の石に含まれる亜鉛元素の「同位体分別」だ。
地球唯一の衛星、月。その起源として現在もっとも有力とされているのが、生まれたばかりの地球に火星サイズの天体が衝突し、その破片から月が形成されたという「巨大衝突(ジャイアントインパクト)説」だ。1970年代に発表されたこの説は、コンピュータシミュレーションや月の石の分析結果とも一致し、主力となっている。
月の石にはナトリウム、カリウム、亜鉛、鉛といった揮発性の(蒸発しやすい)物質が極端に少なく、これは巨大衝突説のみで説明できる。だがもう1つの証拠として、同位体分別の痕跡が必要となる。物質の同位体は中性子数が異なるため質量に差があり、巨大衝突の際に岩石が溶解して蒸発すると、軽い同位体が逃げ重い同位体が凝縮して残るはずだ。
この証拠は長らく見つからず、有力とみられた説も証明しきれないままになっていた。だが今回、米ワシントン大学セントルイスのFrédéric Moynierさんらが、複数のアポロ計画で別々の場所で採取された月の玄武岩20個に含まれる亜鉛を分析したところ、地球の火成岩や火星の隕石と比べて亜鉛が少なく、かつ重い同位体の割合が大きいことがわかった。研究では、これは月を形成した大規模な衝突の際に亜鉛が大量に蒸発したことによるものと結論づけている。
月という片割れができたおかげで地球の自転は遅くなり、気候が安定して生命誕生のきっかけになったとも考えられている。