暗闇の中で光るタイタン
【2012年11月5日 NASA】
土星の衛星タイタンの大気で、太陽光が全く届かない場所から微弱な発光現象が見られた。現段階では明確な原因がわからないという。
NASAの探査機「カッシーニ」の撮影画像から、土星の衛星タイタンの大気の深いところから濃いもやを通り抜けて微弱な光が出ていることがわかった。数百万分の1W程度という非常に微弱な光だが、長期間露出の撮影により、この光をとらえることができた。
「非常に微弱ですが、タイタンが暗闇の中で光っていることがわかりました。これは、ネオンサインの発光と似ている現象だと思います。我々は、荷電粒子がタイタンの大気の窒素分子と衝突して発生する光を見ているのです」(NASAジェット推進研究所のRobert West氏)。
タイタンの大気に太陽や荷電粒子からのエネルギーが供給されていることは研究対象として注目されている。このエネルギー供給が、タイタン大気に存在する天然の有機化学工場のカギとなる。
「有機化学物を含む濃いタイタンのもやは重分子でできていますが、それを生み出す化学反応は何によって引き起こされているのでしょうか。それがわかれば、生まれたばかりの地球にどのような有機化学があったかを知るヒントにもなるんです」(NASAジェット推進研究所のLinda Spilker氏)。
今回見られたような大気発光は、紫外線や荷電粒子によって原子や分子が一時的に高いエネルギー状態に励起したあと、元の状態に戻るときに発生する。カッシーニの研究者たちは以前、タイタンに太陽光が当たっている状態で、X線と紫外線による窒素分子の大気発光をとらえたことがあった。2009年にタイタンが土星の影の中を通ったときは、カッシーニが暗闇の中でタイタンの微弱な発光をとらえる絶好のチャンスだった。
土星の磁場に乗った荷電粒子が落ちてくる高度700km程度の高層大気で発光があることは予想されていたが、意外なことに、土星本体からの反射光も届かない暗い領域でも、高度300kmの深い大気からの可視光発光がとらえられた。その領域は、土星磁場に乗った荷電粒子が落ちてくる場所でもなかった。
今のところ、最も都合の良い説明は、宇宙線が大気深いところまで浸透したというものと、大気の深いところで何らかの化学反応があったというものだ。
「タイタンで一度も見たことない現象なので、とても興味深いです。謎がさらに深まりました」(West氏)。
金星でも、太陽光の届かない夜側の大気から「アシェン光」と呼ばれる発光現象が報告されている。まだ広く受けられてはいないが、金星の雷が大気発光の原因だという説明もある。しかし、土星では雷現象がカッシーニの電波観測で検出されているものの、タイタンでは検出されたことがない。研究チームは次の観測適期に、ヒントを探るための調査をさらに続けるという。