「ケプラーの超新星残骸」が示唆するIa型超新星の多様性

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【2013年4月10日 宮崎大学NASAテキサス大学アーリントン校

1604年に出現した「ケプラーの新星」の残骸の観測から、爆発前の天体の金属量が太陽よりもかなり多かった事が確かめられた。この超新星が分類される「Ia型超新星」は明るさが全て一定とされ宇宙の距離を知る指標になってきた天体だが、その明るさに予想外のばらつきがある可能性が示唆された。


ケプラーの超新星残骸

ケプラーの超新星残骸のX線画像。背景の恒星は可視光線画像。クリックで拡大(提供:X-ray: NASA/CXC/NCSU/M.Burkey et al.; optical: DSS)

ケプラーの新星の位置

天体の位置を「ステラナビゲータ」で表示。1604年の超新星は通称「ケプラーの新星」「ケプラーの超新星」と呼ばれる。クリックで拡大

宮崎大学工学部の森浩二准教授と米大学の研究者らの共同グループがX線天文衛星「すざく」を用いて、へびつかい座の方向約2万3000光年彼方の「ケプラーの超新星残骸」を観測した。この天体は1604年に出現しマイナス等級にまで達したという超新星の残骸で、ドイツの天文学者ヨハネス・ケプラーが詳しい観測をしたことで知られる。天の川銀河内で見つかったものとしては最新の超新星だ(つまり、天の川銀河では400年以上も超新星が見つかっていない)。

超新星爆発を起こした天体は、太陽のような恒星が核融合を終えた後に残る白色矮星であることがわかっている。白色矮星が爆発する超新星は「Ia型」と呼ばれ、連星系の伴星からガスが流れ込むなどして白色矮星の質量が太陽の約1.4倍に達すると、中心部で暴走的な核融合反応が始まり超新星爆発が起こる。

ほぼ同じ質量の白色矮星が爆発するため、Ia型超新星の爆発時のエネルギーもほぼ一定になり、明るさも全て同一だと考えられてきた。この明るさと見かけの明るさとを比較することで、遠方の銀河までの距離を知る指標としても利用される。だが、ケプラーの超新星残骸などの観測研究から、Ia型超新星の明るさには実はばらつきがあるのではという考えも出てきている。「一言でIa型超新星爆発といっても、爆発前の星の組成、その周辺環境、爆発メカニズムは、実は多岐にわたるのかもしれません」(研究論文の主著者で米テキサス大学アーリントン校のSangwook Park助教)。

森さんらはそれを確かめるために、ケプラーの超新星残骸に含まれる微量のクロム、マンガン、ニッケルなど金属元素の量を測定した。その結果から、爆発前の白色矮星の金属量は太陽と比較して3倍ほど多かったということがわかった。Ia型超新星爆発の残骸の観測から、爆発前の白色矮星の金属量が太陽に比べて有意に(誤差とは言えないレベルで明らかに)多いという結果を得たのは初めてのことだ。

金属量が多いということは、重元素が豊富な環境で生まれた星ということを示している。重元素が豊富ということは、それを作り出す恒星の一生のサイクルが短く多くの世代を経てきた環境ということだ。

ケプラーの超新星の元になった白色矮星は、生まれてからわずか10億年ほどだったと推定される。約50億歳にしていまだ一生の半ばにいる太陽と比べてとても短命だ。

爆発前の白色矮星の年齢や金属量は、超新星の明るさと関連があることが理論計算からわかっている。金属量や年齢に幅があるという今回の結果は、Ia型超新星の明るさにばらつきがあるという可能性を示唆するものとなる。

2011年のノーベル物理学賞を受賞した「宇宙の加速膨張の発見」は、Ia型超新星爆発の詳細な観測から突き止められたもので、その膨張速度の測定はIa型超新星爆発の明るさのばらつき具合に依存している。今後、他の超新星残骸が観測され、Ia型超新星の多様性がさらに明らかになることが期待される。

「Ia型超新星が多様だからといってノーベル賞の発見がゆらぐとは考えられませんが、加速膨張の要因となるものを突き止めるヒントになるかもしれません」(研究チームの1人、米ピッツバーグ大学のCarles Badenes助教)。